【“1人バンド”日食なつこの15年 #1】仲間見つからず、ピアノで 鳴ってほしい音弾き歌った
ピアノの音色と歌声で人々を魅了するシンガー・ソングライター日食なつこが、今年活動15周年を迎えた。楽曲の魅力の一つは、時にベースやギター、ドラムを思わせる音をピアノで弾いてみせる豊かな表現力だ。
幼少期からクラシックピアノを習い、日記を付けるように短いフレーズを作ったのが作詞作曲のきっかけだった。高校入学後は「本当は、バンドを組みたかったんですよ」。だが進学先に軽音楽部はなく、仲間は見つからなかった。それでも音楽がやりたい。「1人でやるか」。自分で歌い、イメージする音を得意なピアノに当てはめた。
スネアドラムの細かい16ビートをピアノで刻んでみる。ギターが奏でそうなリフを、動き回るベースラインをピアノで弾いてみる。「そうやって、鳴ってほしい音を作って弾いていったという感覚です。私がやっているのは“1人バンド”なんだと思います」
歌詞や言葉に対する感性も独特だ。「ログマロープ」は2023年の漫才コンクール「M―1グランプリ」のプロモーションビデオに起用された楽曲。「もう1秒だって今の自分で居たくないんだ/目下に広がる大展望は未来の気配を孕んでいる」という鬼気迫る歌詞が、激闘に挑む芸人の気迫に重なると評判を呼んだ。
普遍的な感情に寄り添いつつ、響きの強い言葉をちりばめる。「誰でも作れる歌詞だったら書く意味はないし、誰も分からない歌詞なら歌う意味がない。伝わるけれど引っかかるブレンド具合をいつも探しています」
【にっしょく・なつこ】1991年、岩手県花巻市生まれ。名前は皆既日食の特別感を気に入ったことから付けた。多彩なピアノや力強く透明感のある歌唱が特徴。ヒット曲に「水流のロック」など。「弾き語りソロアーティスト」を名乗る。