圧倒的画力の漫画『ダンダダン』がついにアニメに!龍幸伸インタビュー!
人類、妖怪、宇宙人の三つどもえバトル、アニメで開幕―! 集英社の漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載中の人気漫画『ダンダダン』がテレビアニメ化された。10月3日からMBS/TBS系の木曜深夜枠「スーパーアニメイズムTURBO」で放送中。著者の龍幸伸(たつ・ゆきのぶ)さんは「アニメ化は夢だった。漫画では泣く泣く削ったような部分を表現してくださっていて、粋だなと感じた」と話す。担当編集者の林士平(りん・しへい)さんを交えたインタビューで、『ダンダダン』の魅力に迫った。
【あらすじ】霊媒師の家系の女子高生、綾瀬桃(通称・モモ)は、別のクラスでいじめられていたオカルトオタクの高倉健(通称・オカルン)を救ったことをきっかけに仲良くなり、肝試しに向かった先で宇宙人や妖怪と出会う。その際、オカルンは「ターボババア」に呪われてしまい、次々と怪異現象に巻き込まれるようになって…。アクションシーンが魅力のオカルティックバトル漫画で、既刊16巻。
1.本気で演じてくださっている
記者 待ちに待ったアニメ化ですね!
龍 すごくうれしかったです。アニメ化できたらいいなとは思っていましたけど、連載当初は「打ち切りにならなければいいな…」ととにかく必死だったことを思い出します。過去の自分に「ちゃんとアニメ化するから努力しろよ」と言ってあげたいです。
記者 アニメをご覧になって、いかがでしたか。
龍 映像で見ると、すごいなあって思います。音とか演出とか、こだわって作ってもらって、本当にありがたいです。『ダンダダン』は怖く見せるところ、かわいく見せるところ、面白く見せるところ…といろいろあるんですが、それをちゃんと捉えて作ってくださった。もしかしたら、アニメの方が表現が分かりやすかったりするかもしれないです(笑)。
記者 特に、アニメのどのあたりがお気に入りですか?
龍 モモがオカルンに、淡い感情を抱くようになるシーンですね。
記者 漫画で言うと、1話のラストシーンですね。
龍 はい。モモは俳優の高倉健さんの大ファンなのですが、オカルンの本名も高倉健だと判明します。原作ではふわっと風が吹く演出にしている見開きページですね。漫画というメディアの特性上、情報を圧縮して、絶対に伝えなきゃいけないもの以外は切らないと読みにくくなっちゃいますから、泣く泣く演出を削ったのですが、アニメでは宇宙船が後ろで爆発していて「運命の人と出会っちゃった」感じが演出されています。これは粋だな、素晴らしいなと思いました。
記者 アニメの現場にもよく行っているとか。
龍 そうですね。めちゃくちゃ人が多いんですよ。みんなアニメ「ダンダダン」を作っている人たちなんだけど、実感が湧かなくて…。疎外感というか、自分の作品なのかなこれ…みたいな、なんかすみません…みたいな気持ちになって(笑)。
林 週刊連載作家さんにしては、非常に高い頻度でアフレコにも参加されていますよね(笑)。脚本も演出も、コンテも丁寧に見ていただいています。アニメの山代風我(やましろ・ふうが)監督の演出の意図が明確だった場合は、結構広めに許容されていらっしゃるなという印象です。
記者 意外だった演出はありますか?
龍 「シャコ星人」がラップを歌いながら戦うんですが、それはめっちゃ笑っちゃいましたね(笑)。
林 聞いてもらったのは演出の方が仮で歌ったものですけどね(笑)。
龍 そうなんですね…。このまま流してほしいぐらい、すごい良かったのでちょっと残念です。
記者 声優さんともコミュニケーションをとられるんですか?
龍 オカルン役の花江夏樹さんとは何回か…、顔ちっちゃいなーと思いながら話しました(笑)。声優さんのオーディションって、花江さんレベルでも結構落ちちゃう厳しい世界らしくて、漫画家の世界とリンクするな~と思ったり。
記者 花江さんも、モモ役の若山詩音さんも、素晴らしい声優さんですよね。
龍 そうですね、ギャグシーンは、ギャグだと思ってやると面白くなくなると思うんですが、本気で演じてくださるから面白くなっていると思いました。
記者 ご自身でやってみたい役とかありますか?
龍 オカルンのクラスメイトで、ロボットオタクの金太です。とても気に入っているキャラクターなんですよ。金太が叫ぶシーン、やってみたいですね…!
2.葛藤や救済を提示したい
記者 『ダンダダン』は、洗練されたキャラクターデザインや、分かりやすいアクションなどの他、戦いの後に全員で食事をするシーンにページを割いていることも大きな魅力の漫画です。アニメ「ダンダダン」でも描かれると思うのですが、食事のシーンへの思い入れを教えてください。
龍 あれはもう、自分がすごく好きで入れているんです。
記者 好きな漫画などの影響ですか?
龍 宮崎駿さんの映画ですね。宮崎さんの作品では、労働をした人は必ず食事をします。力を付けて、また働く。食事はとても大事なんです。
記者 ほっこりするシーンですよね。ふと思ったのですが、その着想の背景に、龍先生ご自身の野球部の経験も関係があるのでしょうか。
龍 あると思います。小学3年生から高校までがっつりやっていましたから。一番食べるのが遅かったんで、みんなにわいわい言われながら食べていました。
記者 素敵な経験ですね…。食事のシーンは、読んでいてすごく心地いいシーンです。オカルンやモモたちが、アクションシーンとは別の顔をしているというか。みんなでの食事って、食べ物とかその時間を他者と分かち合っていて、人間が協力して生きていくために大切な行為だよな…と、改めて気付かされます。
龍 そうですね。人間って絶対1人じゃ生きていけませんから。
記者 その通り…なのに、現代の社会は自己責任論がまん延していますよね。
龍 僕は今の社会情勢に憤りを感じている部分があるんです。1人暮らしで、病気になって動けなくなったら、そのまま死ねというような考えはすごい嫌なんです。
記者 『ダンダダン』には、心地の良さを感じるシーンが他にもあります。「アクロバティックさらさら」という妖怪のことです。元は弱い立場の人間でしたが、悲しくも報われずアクロバティックさらさらになります。そのつらい境遇にモモたちが共感して涙を流して、魂が救われるというシーン…。
龍 今の社会の状況をそのまま描いたら、残酷になっちゃうと思うんです。だからこそ、その中で生きるときに生じる葛藤とか、どういう救済がほしいかとか、自分なりに提示していきたいなと思っているんですけど、それはあくまでエンターテインメントの枠の中で、面白いってことが前提です。だから、絶対に希望を見せて終わりたいなと思っています。
記者 そういった意味で深みのある作品だと思います。葛藤というお言葉で思い出しましたが、先ほどご自身で演じてみたいとおっしゃっていた金太は、ものすごい葛藤を抱えたキャラクターですよね。誰も知らないところで地球を守ったという設定で、学校に包帯を巻いてきたり…(笑)。
龍 一番面白いキャラクターだと思っています(笑)。表では格好をつけているって、自分だってそうですから。「男らしさ」って「女々しさ」だと思うんですよ。男が頑張ってかっこつける女々しさを、男らしさと言うんだと思うんです。僕はそれをいとおしいと感じるというか。
記者 なるほど。龍先生の他者へのまなざしに優しさを感じます。
龍 そんなことはないんですけど、僕は自分がつらかった経験を、ほかの人にさせたくないとは思っています。アシスタント時代、かなり無理して働いていましたから、僕のアシスタントさんには無理させたくない。でもそれって、それが普通の感覚だと思います。
記者 素晴らしいお人柄ですね、林さん。
林 そうですね。
龍 優しくなりたいです。
記者 しかも圧倒的な画力を持っている。
林 そうですね。最初の持ち込み作品にはぼろくそ言った記憶がありますが(笑)、いつも僕の想像を超えてくるので、打ち合わせしていても楽しいなと思っています。
龍 僕も自分で描いていて楽しいです。アニメ化を含め、林さんには感謝しています。
3.「明日も頑張ろう」と思ってほしい
記者 漫画『ダンダダン』も特撮っぽい雰囲気がありますが、アニメ「ダンダダン」にも、随所に特撮っぽい演出が取り入れられていますね。
龍 とてもうれしいです。僕は小さい頃から特撮が大好きでしたから。
記者 特撮のどのようなところが好きなんですか?
龍 工夫して作ってる感じというか、手作り感というか。すごくかわいいなと。
記者 今回、アニメーションを制作する「サイエンスSARU」さんの印象は?
龍 信頼できるなと思っていました。結構、色使いとか特殊なことをやる印象で、漫画『ダンダダン』は色をあんまり決めていない部分もありましたから、いじってくれてありがたいなと思います。
記者 山代風我監督の印象はどうですか?
龍 オタクだなと(笑)。会話していても知識がすごいなと感じるんですが、演出もめちゃくちゃすごいなと思っています。
記者 アニメ「ダンダダン」に期待していることはありますか?
龍 やっぱり…、シャコ星人の歌ですね(笑)。実際に声が当てられたらどうなるのか楽しみです。
記者 (笑)。注目してみます。
龍 やっぱりエンターテインメントなんで、面白い、楽しい、って気持ちになってもらえたらうれしいです。アニメを見終わって『明日も頑張ろう』って思ってもらえたらうれしいですね。
【龍幸伸】2010年、「正義の禄号」でデビュー。21年から『ダンダダン』を連載している。影響を受けた漫画は三浦建太郎さんの『ベルセルク』、尾田栄一郎さんの『ONE PIECE』など。
【林士平】1982年東京都生まれ。2006年に集英社に入社。漫画編集者。『ダンダダン』の他、藤本タツキさんの『チェンソーマン』、遠藤達哉さんの『SPY×FAMILY』などのヒット作も担当中。
(取材・文=共同通信 川村敦)