【東京ウオッチ】希望と再生の糸を紡いだ芸術家の生涯―森美術館でルイーズ・ブルジョワ展 いまのTokyoをつかむイベント情報(12日~20日)
◎今週の一推しイベント
【12日(土)】
▽「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」(~25年1月19日、港区・森美術館)
六本木ヒルズの敷地内に、2003年春の開業以来、高さ10メートル超の巨大なクモの彫刻がそびえ立っている。やや不穏なイメージも醸し出す造形物の名は「ママン」(母)。その意味を解き明かす大規模な展覧会が、同ヒルズ森タワーで開催中だ。
彫刻の作者は20世紀の世界的芸術家、ルイーズ・ブルジョワ。パリに生まれ、米ニューヨークで2010年に98歳で没した後も「世界中の主要な美術館で個展が次々開催され、評価は高まり続けている」と森美術館の片岡真実館長は語る。
少女時代から支配的な父との関係に苦しみ、ヤングケアラーとして介護していた病気の母を早くに亡くした。彼女のアートは、複雑な家族関係や終生抱えたトラウマを乗り越え、作品に昇華してゆく営みだった。
布や木枠、ブロンズ、大理石など多様な素材を駆使した。ジェンダーやセクシュアリティーを主題にした絵画「ファム・メゾン(女・家)」、彫刻「カップル」の各シリーズや、肉親への愛憎をオブジェ化した「父の破壊」、妊婦の右腕を松葉づえが支え希望を予感させる「トピアリー☆(ローマ数字4)」など、本展の見どころは数多い。
会場にもいくつか登場するクモの彫像は、子を守り、時に傷つける母性の象徴という。そしてパリで両親が営んでいたタペストリー修復工房の記憶とも結びついている。
本展タイトルは、晩年の作者がハンカチに縫い付けた一文から。波乱の生涯で味わった“地獄”を「素晴らしかったわと言ってのける軽やかさとブラックユーモア」を片岡館長は感じるという。破れた巣を正確無比に作り直すクモのように、修復と再生の糸を紡ぎ続けた生涯だったようだ。
○そのほかのお薦めイベント
【12日(土)】
▽「『トッズ アート オブ クラフツマンシップ』ポップアップイベント」(~15日、中央区・日本橋三越本店、入場無料)
イタリアのラグジュアリーブランド「トッズ」の2024―25年秋冬コレクションを紹介するポップアップイベントが、日本橋で行われている。
このシーズンからデザイナーに就任したマッテオ・タンブリーニさんの世界観を表現。卓越した技術を持つ職人の手仕事によりつくりだされた、イタリア製品の品質の良さを伝えている。
先行発売のアイテムが多数登場。注目は、巧みな縫いと高度な馬具作りの技術でレザーを仕上げた「トッズ ディーアイ バッグ フォリオ」のスモールサイズ。丁寧な靴づくりで知られるが、新作のローファーもフォルムの美しさが際立つ。
職人たちが手にするはさみや靴の木型などの道具を作品化したオブジェも展示。優れた技の伝統とアート性を同時に体感できる空間となっている。
▽「『ガーデンテラス×ペリエ ジュエ フリーフロー』プラン」(~11月30日、港区・東京エディション虎ノ門31階)
フランスのシャンパンメゾン「ペリエ ジュエ」の製品をフリーフローで楽しめる秋限定プランが、虎ノ門で開催されている。
会場は、ミシュランの星を獲得している英国人シェフのトム・エイキンズさんが手がけるレストラン。テラス席からは圧巻の景色を望むことができる。
提供されるシャンパンは3種。「ペリエ ジュエ ベル エポック 2015」は白い花の香りが際立ち、洋梨やグリーンペッパーなどを含んだ繊細な味わい。鮮やかなトマトのサラダや、チーズとトリュフが香るオニオンバンズなど、エイキンズさんが考えたスナックメニューも用意。都心の秋風を感じながら、特別な時間を過ごしたい。
▽「嗅ぎたばこ入れ 人々を魅了した小さな容器」(~12月22日、墨田区・たばこと塩の博物館)
世界各地の「嗅ぎたばこ入れ」を紹介する展覧会が墨田区で開かれている。
「嗅ぎたばこ」は粉末状のたばこの葉を鼻から吸いこみたしなむ。米国大陸の先住民の風習だったが、大航海時代以降に欧州にもたらされアジアへと広がり、18世紀には喫煙以上に人気があった嗜好品ともいわれる。
そのたばこを保管・携帯する容器が嗅ぎたばこ入れ。フランスをはじめとする欧州、アジアの国の嗅ぎたばこ入れ約300点を館のコレクションから紹介している。
欧州で使用された箱状の「スナッフボックス」と瓶状やつぼ状の「スナッフボトル」、中国の鼻煙壺(びえんこ)といった、エナメルや象牙、木などの素材で作られた作品を鑑賞できる。18世紀のフランス宮廷では、ステータスを示すファッションの一種として使われていたともいう。
学芸員の比嘉昌哲さんは「箱の装飾、描かれた人物や風景など、美術品としての価値が高いために、ルーブル美術館では嗅ぎたばこ入れの優れたコレクションを有している。ものではなくアートとしての魅力を発見してほしい」と話した。
【13日(日)】
▽「『ヒロシマモナムール』をめぐって」(14時30分、新宿区・東京日仏学院エスパス・イマージュ、事前予約制)
フランスの映画監督アラン・レネさんの没後10年を機に、広島の原爆の記憶を描いた傑作「ヒロシマモナムール」を巡るイベントが行われる。
同作の上映と写真家の港千尋さんらによるシンポジウム、レネ監督の短編作品「ヴァン・ゴッホ」の上映と映画監督・筒井武文さんによる講演会を行い、戦争の悲劇について考える機会となる。