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『機動戦士ガンダム』は「50周年に向け毎年大きな作品」 ガンダム事業部・小形尚弘ゼネラルマネージャーインタビュー

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 1979年に初代のシリーズが放送開始し、今年45周年を迎えた機動戦士ガンダムシリーズ。今年もNetflixで公開される『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』、長編VR作品『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』など、話題に事欠かない。ガンダム事業部のゼネラルマネージャーを務める小形尚弘に、今年公開の作品と今後の展望について聞いた。

 【小形尚弘】1997年サンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)に入社。2006年からプロデューサーとしてガンダム作品を始め数々の作品を手がける。22年から同社IP事業本部ガンダム事業部ゼネラルマネージャーとして、ガンダムのIP軸戦略を担う。

【目次】

(1)他とは違った富野監督

(2)真夜中、海外とオンライン会議

(3)チャンスすごく来ている

(1)他とは違った富野監督

 ▼記者 機動戦士ガンダムシリーズが45周年を迎えました。なぜここまで続いてきたのかと、シリーズの魅力を教えてください。

 ◆小形 一番はファンの皆さんの支えがあったからこそです。また、最初の『機動戦士ガンダム』を作られた、富野由悠季監督を始め、安彦良和さんや、大河原邦男さんたちが作ったシリーズが物語としての強度を非常に強く持っていて、われわれはシリーズをいろいろ作らせていただいていますが、(最初のシリーズは)どの時代でも通用するフレームになっています。昨今、日本のアニメーションで海外を狙っていく動きがとても多く、グローバルに向かっていく流れになっています。そんな時に45年前に作ったものながら、例えば人種が描かれず、多様なルーツを持つキャラクターが登場するなど、そういった意味で今グローバルに出ていくに当たって、適した物語を作ってくれていたというのは非常に大きかったと感じています。

 ▼記者 最初の方は富野由悠季監督が総監督を務められていましたが、富野監督ではないクリエーターの作品も多いですね。

 ◆小形 富野監督が他のクリエーターと少し違うのが、早い段階で違う監督にやらせることを認めていたところです。今これだけガンダムシリーズを、その時々の旬のクリエーターの手で新しいものとして毎回生まれ変わらせることができるのは、そこの部分がすごく大きいです。

 初代の強さがあるのですが、それを毎回、その時の旬のクリエーターが社会情勢や、若者の不満や悩みを、その都度その都度アップデートして新作を作っていくのがガンダムなんだと思います。

 ▼記者 ガンダムは海外でも人気なのでしょうか。

 ◆小形 日本とアジアに関してはおかげさまで非常に高い人気と認知度をいただいていると感じています。北米、欧州はまだこれからです。コロナ禍の時の巣ごもり需要などで、ガンダムのプラモデルの売り上げが上がるといったことは世界中でありましたが、日本のアニメーション、漫画といったIP(知的財産)が外に出ていくチャンスがちょうど今来ていると個人的には感じています。

 配信プラットフォームが整備された状態でほぼ時間差なしに、ダイレクトに、テレビシリーズなどが世界中の皆さんの手元に行き渡るという環境が整っている中で、日本のアニメーションの技術や関わるクリエーターが世界中に受け入れられやすくなってきている面もあります。それを考えると、北米欧州の伸びしろが大きくあると感じています。そこに関しては、今後一番の課題でもあり目標でもあります。

(2)真夜中、海外とオンライン会議

 ▼記者 そんな中、10月17日からNetflixで『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』が全世界配信されます。

 ◆小形 Netflixさんから、ゲームエンジン「Unreal Engine5」を使って、ガンダムのアニメーションを作ってみませんかという提案がありました。今、技術的にはアニメーションの作り方が昔の時代よりもかなり進化してきています。最新作の『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』もそうですが、3DCGをいかに使っていくのか、もちろん日本独自の手描きの良さはしっかりと残しつつ、どうやって3DCGを使いながらクオリティーと人的リソースのところをバックアップしていくかという取り組みをずっと行っています。技術開発的にも興味があり、今回「復讐のレクイエム」をやることになりました。

 ▼記者 挑戦的な作品なんですね。

 ◆小形 技術もそうですが、監督がドイツのエラスマス・ブロスダウさんと、ライターがアメリカのギャビン・ハイナイトさん。海外のクリエーターと協業することはなかなかないです。日本のアニメーションは注目されていて、うちの作品ではなくてもアニメーターさんに海外の方が入ってきている時代なので、作る方もグローバルに広がっていくのかなと。過渡期の中でチャレンジとしてはすごく面白かったです。

 コロナ禍でリモートでの打ち合わせが発展しました。リモートをつないで、シナリオの打ち合わせなどをやりましたが、ヨーロッパとアメリカと日本をつなぐと、どこかが時差で真夜中、ということはありましたが、シナリオ開発については、意見交換しながらやれたかなと思ってます。

 ▼記者 海外のクリエーターが手がけても、これまでのガンダムの持ち味は変わらないでしょうか?

 ◆小形 富野監督以外の監督が担当している作品も結構多くなってきています。45年もたっていることもあり、(ファンの)皆さんの許容の懐も大きくなってきているのが今だと思います。今回の話は視点的には地球連邦軍ではなくて、ジオン側の1年戦争の話になります。外国の方がメインスタッフで入って見る1年戦争が、多分ちょっと違う形で見えるのではないかなと思います。

 ▼記者 「復讐のレクイエム」の主人公は、最初の作品では敵側だったモビルスーツ「ザク」に乗りますね。

 ◆小形 監督とライターさんのこだわりが大きいですね。今回ガンダムが簡単に言うと敵みたいな形で見えてきますが、ガンダムの方には逆にヒーロー感というよりは怖さをわざと入れているというか、ホラー映画とか、若干スリラー的な演出が今回は入っています。えたいの知れない怖さっていうのをガンダムに入れている形ですね。

 ▼記者 今回は主人公が女性ですね。

 ◆小形 一昨年去年とやっていたテレビシリーズ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が女性の主人公で、企画していた時期がもしかしたら似通っていて、たまたま(女性主人公)が続いている形かもしれませんが、基本的には意識的に女性を主人公にしようとかしないとかいう話はあまりないです。元々最初の作品の頃から富野監督が描く作品の中では、女性が活躍する場面はものすごく多く描かれています。それが主役かそうでないかという差なだけかなと思います。何か新しいことをやっているとか、チャレンジということではないですね。

 例えば人種や、男女の活躍といった部分については既に富野監督が作った初代ガンダムの段階で多様性が入っていました。宗教観など、いろいろなことがベースとして入っている。ですのでことさらそこを意識して作るということはあんまりないですね。

 ▼記者 昨今、ウクライナ侵攻など、現実にも戦争のニュースがあふれる中で、戦争の描き方なども配慮していますか。

 ◆小形 前提条件としてガンダムシリーズは、基本全世界の、全年齢が見られるものにしてほしいというのが基本的な制作の考え方です。戦争を描くことが多いので、人が死ぬところは描かざるを得ないところはありますが、表現の仕方などは、作劇的に必要かどうか、判断をしていくことが多いかなと思っています。

 最初の頃からですが、その当時の社会情勢などを取り込みながら作るのは、ガンダムのみならず、日本のアニメーションでもさまざまにあるとは思いますが、そこでそのまま描くのではなく、今の社会問題をベースにして未来の物語として描いていくというのは、演出的な腕の見せどころというか。そこを気にしながら皆さん演出されていると思います。

 ▼記者 現代の問題を反映しながら描いているんですね。

 ◆小形 基本的には「水星の魔女」のようなテレビシリーズの特に新作のガンダムを作るときは、その時の若者が社会や大人たちにどういう不満を抱えながら生きているのか、という葛藤を描くことをすごく意識しながら作っています。

 新規のティーンエージャーたちに「これが自分たちのガンダムだ」と思ってもらえるように作るよう心がけています。これは最初のガンダムからやっていたことなので、何かわれわれが新しいことを取り入れてやっているというよりは、富野監督が45年前からやり続けてることをそのままやらせていただいています。

 (3)チャンスすごく来ている

 ▼記者 10月4日にMeta Quest向けに発売の、長編VR作品『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』については。

 ◆小形 長期的な技術開発的な意味合いが強いです。今イマーシブな映像体験はVRだけではなく、イベントや、イマーシブな施設がお台場にあるとか、今後いろいろ増えてくると思います。バンダイナムコフィルムワークスのサンライズスタジオでも技術を開発しておきたいところに、ちょうどこの話が来たので、ぜひやってみようということになりました。

 こちらも結構チャレンジングなことをしていて、「復讐のレクイエム」との対比で面白いなと思います。「復讐のレクイエム」は3DCGで、ゲームエンジンを使いリアル質感にこだわってやっていますが、「銀灰の幻影」に関しては、どちらかというと2Dセルルック(3DCGを2Dのアニメに見せるような技術)がVR空間でどう立体的に見えるように設計されているというか、VRは基本的には3Dでやりますが、今回キャラクターが2Dのルックで登場してきますので、新しい見え方になっていると思います。ぜひ体験していただきたいですね。

 ▼記者 シリーズ45周年の今年、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が、興行収入50億円超と、歴代の映画作品の最高額を記録しました。

 ◆小形 これもひとえに、テレビシリーズの放送が終わってから20年間ずっと待ち続けてくれたファンがいてくれたからこそ、なし得たというか、この期間制作に関わった人たちも、いろいろあったと思うのですけど諦めずに作り続けたというのが大きかったのではないかなと思います。

 ▼記者 50周年に向けて、どのように展開していきますか。

 ◆小形 端的に言ってしまうと、いま日本のコンテンツにとっては海外に出て行くチャンスがすごく来ていて、自社のハリウッドのガンダムの企画などもやっていますが、そこで感じるのが日本のクリエーターは、日本独自のノウハウや高度なスキルを多く持っていると思います。そういう意味では、アニメーションというジャンルを含めたところで、今世界的に認められてきているので、ガンダムもそれにしっかり乗っていきたいです。まだ世界中にはあまりガンダムを知らない人、見たことない人もいると思うので、なるべく多くの人にガンダムを体験してもらいたいなと思ってます。

 その時には映像もそうですが、音楽も今アニメーションと一緒に出てくるという流れもできていますし、そういった日本全体の文化を、アニメーションが引っ張るものの一つとして、一緒に外に出ていけるというのがいいとは思っています。

 先日フランスでDJライブを小室哲哉さんが行って、そこにガンダムやシティーハンターの映像を流してもらったんですが、日本のカルチャーを紹介するものとしてはまさに理想的な形だなと思っています。映画やアニメーションはそういう部分を多分に含んでいると思いますので、皆さんと一緒に外に出て行ってガンダムを1人でも多くの人に見てもらうっていうのが、50周年に向けた取り組みの一番大きいところかなと思っています。

 横浜の動くガンダムに175万人の方に来場いただきましたが、コロナ禍が明けてからは多くのインバウンドのお客さまに立ち寄っていただきました。来年大阪万博もあり、この機会にガンダムに触れる海外の方はいらっしゃると思うので、そういった人たちをどんどん増やしていきたいです。

 世界的にはまだまだこれからなので、まずは若い人たちに見てもらって、長く愛してもらえるのがベストなんじゃないかなと考えています。

 ▼記者 「復讐のレクイエム」「銀灰の幻影」と、盛りだくさんですね。

 ◆小形 作品が多くて、どれから見ていいか分からないと海外の人に言われるのですが、これもガンダムのユニークなところなのかなと。これだけ新しいものがどんどん作品として出てくるシリーズっていうのもなかなかない。特に来年からは50周年に向けて大きな作品が毎年出てくる予定ですので、今からお楽しみにしていただければと思います。

 (共同通信=高坂真喜子)

 ※当初「エラスマス・ブロウダウさん」とありましたのは「エラスマス・ブロスダウさん」の誤りでした。訂正いたしました(10月18日15:43)

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