1万人超が住んだ「鳩山ニュータウン」今は… 発想変え活気あるカフェ誕生、客集まる 芸術家の“基地”も
築46年の一戸建て民家に入ると、サイケデリックな色彩の内装が目に飛び込む。レコードから流れる歌謡曲。昭和のアートな雰囲気を味わいに常連客が訪れ、話に花を咲かせる。10月、首都圏50キロ圏内の鳩山ニュータウン(鳩山町)。芸術家の菅沼朋香さん(35)が2年前に開いた「ニュー喫茶 幻(まぼろし)」だ。
愛知県のニュータウンで育ち、東京芸大大学院で「忘れられた大切なもの」として、高度成長期をテーマに現代美術を制作していた。鳩山に移ったのは2017年。藤村龍至東京芸大准教授(44)が率い、鳩山ニュータウンの活性化に取り組む会社のスタッフに誘われた。
「ニュータウンは高度成長期の産物。店だけでなく、来店するお客さんも含めて私のアート作品。均質なイメージのニュータウンに多様性を開花させたい」
鳩山ニュータウンは1974年に入居が始まり、東京のベッドタウンとして発展。98年には人口が1万人を超えていた。しかし今年9月に6880人まで減り高齢化率は54・3%。町は移住や交流推進、起業支援に向け「コミュニティ・マルシェ」を設け、東京芸大の学生や卒業生を巻き込んだ取り組みを進める。
新型コロナウイルス禍でまた一つの動きが生まれた。建築デザイナーの小西隆仁さん(26)は4月、築46年の民家を借りてシェアアトリエを開いた。東京芸大大学院在籍時に欧州に留学していたが、コロナ感染の急拡大で帰国。「郊外留学」として鳩山町のシェアハウスに入居した。
「ニュータウンでは、リタイアした人たちが趣味でいろいろ好きなことをやっている。その人たちを横につなげたい」。最初は移動式の屋台で庭先を巡り、住民が作ったマスクや野菜などを売った。アトリエには3人の芸術家が住み、創作や地域活動に励む。その1人で東京大3年の山川綾菜さん(21)は「面白い人たちが集まる基地のような存在」と話す。
「ニュー喫茶 幻」の常連客、守屋成身さん(66)は「衰退するイメージが強かったニュータウンだが、考え方を変えれば希望が見えてくる」。藤村准教授は「今後各地のニュータウンでは再生か埋没か、二極化が進むのではないか。この5年、10年が勝負」と語る。
■郊外回帰に備え、魅力を/記者の思い
新型コロナウイルスの感染者減で「コロナ移住」という言葉を耳にすることは減った。しかし、コロナ禍は大都市の人口集中リスクを露呈させた。近年頻発する災害も心配だ。起こり得る郊外回帰の波に備え、住環境や文化などで魅力を感じるまちづくりを進めることがニュータウンの生き残りの鍵となる。