岩槻移り、構図変動 地盤の優位薄れ伯仲 衆院選埼玉1区(さいたま市浦和、緑、見沼区)
8647、8806、9351、9956―。自民前職の村井英樹(44)が初当選した2012年から過去4回、岩槻区で立民元職の武正公一(63)につけた票差だ。前回は全体の票差2万4166票の4割以上を岩槻が占めた。
村井にとって大票田の岩槻区が区割り変更で新設の16区へ移る。村井は「手足がもがれる思い」と表現し、事務所関係者も「選挙戦で痛いのはもちろん、精神的なショックも大きい」と打ち明ける。党への逆風も重なり「過去4回に比べ一番厳しい選挙戦だ」と語る関係者も少なくない。
■“親離れ”
区割り変更決定後の昨年2月、村井は市民会館いわつきで感謝の集いを開いた。出席者によると、定員超えの700人以上が駆け付けて立ち見が出るほどで、感謝の言葉を伝える際に感極まる場面もあったという。「初出馬から岩槻の方々には息子のように、弟のように、家族のようにかわいがってもらい、いつも温かく迎えてくれた」。そして「ある意味“親離れ”しないといけない時期なのかな」と、これまでの恩を力に変えることを誓う。
裏金問題を巡り、自民が向かい風を受ける選挙戦。村井自身は裏金と関係なく、3年間、首相補佐官、官房副長官として政権の中枢を担った自負がある。「奇をてらうことなく、正々堂々とこれまでの取り組みや次の期に懸ける思いを訴える」。公示翌日には岸田文雄前首相が応援へ駆け付けて側近を激励。村井は聴衆に深々と頭を下げた。
■新代表で追い風
捲土(けんど)重来を期す武正は00年の初当選を含め小選挙区4連勝後、村井に4回連続で涙をのんだ。岩槻の除外には「票を見れば差が縮まる可能性はあると思う」と慎重な言い回しだ。実際に岩槻以外の他の3区でも一定の差をつけられてきた。ただ見沼区は前回、前々回から票差を約半分に縮めている。区割り変更で全域が選挙区となる見沼では21年の衆院選以降、後援会見沼支部を強化。浮動票や無党派層の取り込みを狙う。
選対幹部は「逆転するには分厚い中間保守層の票を取れるか」と指摘。別の選対関係者は「野田さんが代表になったのは追い風だ」とみる。野田佳彦代表と武正は政策グループ「花斉会」に所属。考えも共通する部分が多く、訴えが有権者に浸透しやすいのではと分析する。
前回は立民、共産、社民、れいわの野党4党統一候補として出馬したが票は伸びず不完全燃焼だった。8日の総決起集会には党の長妻昭代表代行、15日の出陣式には岡田克也前幹事長が駆け付けた。武正は「日本を変えるうねりを埼玉1区から起こしましょう」と大声を張り上げた。
■台風の目に
「強大な2大勢力に捨て身の挑戦」と銘打ち、初の国政選挙となる維新の浅野目義英(66)は上尾市議と県議を4期ずつ務めた。「選挙は何万票取ろうが、まずは1票から」と、政治改革を掲げ、朝の駅立ちや「6時間駅頭」を定期的に行うなど知名度向上と支持層拡大に注力する。
公示前の13日には党ナンバー2の藤田文武幹事長が「地方の生活に密着した課題を解決してきた浅野目さんをぜひ国政に」とアピール。浅野目の長男で事務長を担う紘彰(38)は「名前に“目”も入っているし、台風の目になりたい」。
共産は17年以来の独自候補として川口市議を3期12年務めた新人の矢野由紀子(60)を擁立。10日の演説会で石川県金沢市出身の矢野は「災害は待ったなしだ。防災・減災予算を増やしていく」などと訴えた。みんなでつくる党新人の三上恭平(42)は、スタートアップ企業の積極支援などを掲げ、主にユーチューブやXを活用した選挙戦を展開する方針。=敬称略
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県内16小選挙区に66人が出馬した衆院選。激戦を展開する注目区を報告する。