【東京ウオッチ】月に照らされ、つながる今昔の思い―目黒の文化財建築で浮世絵「月百姿」味わう いまのTokyoをつかむイベント情報(26日~11月4日)
◎今週の一推しイベント
【26日(土)】
▽「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」(~12月1日、目黒区)
幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師・月岡芳年の月に関わる作品と歴史ある建築の融合を楽しむ展覧会が、目黒のホテル雅叙園東京で開催されている。東京都指定有形文化財「百段階段」の階段廊下がつなぐ七つの会場で、芳年の最晩年の傑作「月百姿(つきひゃくし)」から計20点を前・後期に分けて展示する。
師である歌川国芳の自由な発想を継承し、西洋画の写実性を取り込んだ作風で知られる。学芸員の梶野桜さんは「人物の動きや構図、色使いなど、マンガに通じるような面白い描写が特徴。浮世絵になじみがない人たちでも楽しめる」と話す。
平安時代の歌人の姿などを描いた作品を和紙に転写し、裏から明かりを照らすなど大胆な演出で展示。「美術館とは違った視点で、芳年作品の魅力を伝えたかった」と梶野さんは言う。武士に襲いかかろうとする盗賊を描いた「原野月 保昌」など、ススキが描かれた作品も多い。2千本以上のススキが置かれた空間展示では、作品世界に入り込んだような感覚に浸れる。
展示会場の一つに「清方の間」という部屋がある。鏑木清方は芳年の系譜に当たる美人画の大家。清方の天井画や欄間絵(らんまえ)を背景に、芳年が平家一族の笛の名人を描いた「舵楼の月 平清経」などを鑑賞すれば、師弟の競演が楽しめるだろう。
琵琶湖南部の石山寺で、中秋の名月を眺め物語の構想を練る紫式部を描いた名作「石山月」は11月6日からの後期展示となる。水と月をテーマにした部屋は、源氏物語を連想させる現代作家のガラス作品などを配置して石山月の世界観を深めた。「芳年が創作した月の風景から、時を超えて昔の人々の思いを感じてほしい」
○そのほかのお薦めイベント
【26日(土)】
▽「さらに装飾をひもとく―日本橋の建築・再発見」(~25年2月24日、入場無料、中央区)
装飾に着目しながら日本橋エリアの建築を紹介する展覧会が、高島屋史料館TOKYOで開かれている。監修は建築史家の五十嵐太郎さんが務めた。
明治時代にいち早く近代化を遂げた日本橋は、日本銀行本店本館や三井本館などに代表されるように、「古典主義」の影響を強く受けた街並みとして知られる。
本展では、街の多様な建築装飾を写真と資料で展示。中世風のたたずまいの丸石ビルディングや、渋沢栄一を中心に金融街へと発展した兜町にある山二証券などの玄関や柱頭に施された装飾の細部を知ることができる。
比較的新しい光世証券兜町ビルやKABUTO ONEのデザインにも光を当て、新旧の建築が混ざりあった街であることを伝えている。五十嵐さんは古い建物を残す日本橋を「成熟した街」と評しているという。
展示場を出てからが本展の醍醐味。館内でもらった地図を片手に、会場がある和風のアールデコ装飾が施された日本橋高島屋本館を出発し、実際の建築を足で見て回りたい。学芸員の海老名熱実さんは「見慣れた街並みに存在する価値を新たに発見することで、街の風景が違って見えてくる」と話した。
▽「金魚泳ぐ幻想秋夜」(~11月27日、中央区・アートアクアリウム美術館GINZA)
光とともに金魚を楽しむイベントが、銀座で開催されている。
ランタンで埋め尽くされた空間では、100種類、5千匹の金魚がライトアップされた約160個の水槽で泳ぎ、和の世界観が広がっている。紅葉やイチョウ、彼岸花など秋の花々で館内を彩る演出も凝らした。赤や黄に染まるライティングは、まるで秋の夕焼けに染まるようで、室内にいながら日本の季節を感じられる。
イベント中は、歌川国芳の妖怪画10作品も期間限定で展示(~10月31日)。ダイナミックな妖怪絵の紹介は“和ハロウィーン”を表現した特別演出となる。金魚と鯉を描いた国芳の作品も常設展示されており、江戸時代から人々に親しまれていた金魚鑑賞の文化を知ることができる。幻想的な光と美術作品で幽玄の美を楽しみたい。
【1日(金)】
▽「オータムアフタヌーンティー」(~30日、港区・シェラトン都ホテル東京)
“実りの秋”をテーマにしたアフタヌーンティーが1カ月間、白金台で提供されている。
栗や巨峰、洋梨、さつまいもといった秋の味覚を使用したスイーツとセイボリーを展開。丹波栗のクリームで仕立てた「モンブラン」や、栗の形に見立てたムースを、豊富なドリンクと共に味わえる。ホテルの窓から秋の景色を眺め、優雅なひとときを過ごしたい。
▽「生成AI時代のデジタルアーカイブをみんなで考える」(13時10分、入場無料、事前予約制、文京区・東京大本郷キャンパス福武ホール)
“知識のインフラ”としてのデジタルアーカイブの在り方を考えるトークセッションが、東京大で行われる。
生成AI時代に、法制度や技術、メディア、アート、教育、ビジネスなどの分野でアーカイブがどのような役割を果たすのかを討議。一橋大大学院教授の生貝直人さんら登壇者が話題を提供し、来場者との双方向の交流を通して、その可能性や問題点を探る。
AI時代の社会について「皆で考える場」を共に創る機会となるだろう。2日まで関連テーマで企画セッションも。