本当にさみしい…蜷川幸雄さん創設、高齢者演劇集団が解散へ 19日から開幕、最後の舞台へ稽古に熱
川口市出身の演出家・蜷川幸雄さん=2016年に80歳で死去=が創設し、さいたま市の彩の国さいたま芸術劇場を拠点にした高齢者演劇集団「さいたまゴールド・シアター」が19日から開幕の沈黙劇「水の駅」を最後に解散する。巨匠による厳しくも温かい指導の下、積み重ねた人生経験を演技に反映させ、国内外で高い評価を得た劇場の看板。平均年齢81・9歳の団員は全力でぶつかった15年を胸に、稽古に熱を入れる。
12月上旬、同劇場の稽古場。演出家・杉原邦生さん(39)の「おはようございます」という掛け声で始まった「水の駅」の稽古。この劇にせりふはなく、水場を訪れそして去っていく人々を描く。必死に水を飲む表情や70~90代の団員のたたずまいが、存在感を放つ。
15年前、主婦から演劇の世界に飛び込み、ゴールドの一員となった渡辺杏奴(あんぬ)さん(79)=東京都=は「始まりがあれば終わりがあるのは世の習い。本当に感無量。『恥をかけ』『人生の年輪を演じて』という蜷川さんの言葉が、15年たってやっと理解できた気がします」と語る。
滝澤多江さん(75)=越谷市=は役を理解できず思い詰めていた11年前、蜷川さんから「ざまーみろ。いい気味だ、苦しめ、悩め」と言われた。強烈なエールを受けたことで自分を思い切り出せるようになったと振り返る。「水の駅」では、認知症の母を見守る娘の役。一緒に住めなかった自身の亡き母を思い出し、「できなかった親孝行をしている気持ちです。解散後も演劇を続けたい」と話す。
蜷川さんが同劇場の芸術監督に就任したのは06年1月。真っ先に取り組んだのが、演劇経験のない高齢者を集め、芸術の高みを目指す劇団の構想だった。予想を超える1266人の応募があり、オーディションで選ばれた55~80歳の48人で同年4月に発足。大規模な高齢者劇団ということで海外からも注目を集め、13年の「鴉よ、おれたちは弾丸(たま)をこめる」を皮切りにパリや香港などに遠征した。蜷川さんが16年に亡くなった後も年に数回程度、公演を行ってきたが、コロナ禍や高齢化により活動できる団員の減少もあり解散を決めた。
同劇場の渡辺弘事業部長(68)によると、蜷川さんはゴールドを主宰するようになって「老人は天使じゃない」「団員は(自分を映す)鏡」とよく口にした。せりふが覚えられない、病気やけが、介護の問題など、蜷川さんだけでなく、サポートする劇場の職員も手探りで「老い」と向き合った。渡辺事業部長は「家族のように付き合ってきたので、終わるのが本当にさみしい。次期芸術監督の下、この学びを生かして次の段階に進みたい」と新たなプロジェクトを検討していることを明かした。
「水の駅」は26日まで。問い合わせは劇場チケットセンター(電話0570・064・939)へ。