涙あふれた母…猛スピードで身勝手な走り屋、安全運転する息子の命奪う「殺人と同じ。一生かけて償って」
埼玉県飯能市で2018年10月、制限速度を89キロ超える約129キロで乗用車を運転して事故を起こし、3人を死傷させたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた、会社員の男(34)の裁判員裁判の論告求刑公判が14日、さいたま地裁(小池健治裁判長)で開かれた。検察側は「犯行態様は非常に危険で経緯は身勝手。対向車両に全く落ち度はなく、避けようもない理不尽な事故」として懲役9年を求刑。弁護側は懲役5年以下を求め結審した。判決は22日。
検察側は論告で、速度超過で2度の免許取消処分を受けながらも、態度を改めず意図的な交通法規違反を繰り返した悪質性を指摘。車も大きく改造し、「根拠の伴わない運転技術に対する過信や楽しみたいという安易な欲求があり、事故は起こるべくして起きた」と必然性を強調した。
弁護側は129キロは極端な高速度ではないと説明。犯行当時は交通量が少なく信号無視も飲酒運転もしていないとし「極めて危険とまでは言えない」と主張した。また遺族と示談が成立見込みで内妻が男の監督を約束している点などから情状酌量を求めた。
■母親「殺人と同じ」
公判では、事故で亡くなった男性の母親が意見陳述し、「危険という認識があって高速度運転していたのは殺人と同じ。殺人と同等の処罰でいいのでは」と涙ながらに訴えた。
男性は幼い頃から穏やかで争いを好まず、友人のけんかの仲裁をしたこともあったという。祖父母の家の大掃除や片付けを手伝ったりするなど、誰からも好かれる心優しき青年だった。心配性な一面もあり、特に乗用車の運転には慎重だった。大学院卒業後には、大手自動車メーカーへの就職も内定していて、そのエントリーシートには「安全な車、楽しく乗れる車をエンジニアとしてつくりたい」と記していたという。
母親は男性を「自慢の息子です」とし、男に対しては「スピードを出さないで運転すれば命を落とさずに済んだはず。息子の命を奪ったことを心に刻み、反省して一生かけて罪を償ってほしい」と言葉を絞り出した。