<月曜放談>国家経営には論語の覚悟と責任を 新しい資本主義、成長の実現へ向け考慮すべき点は
■新しい資本主義へ要望/県商工会議所連合会会長、埼玉りそな銀行会長・池田一義氏(寄稿)
岸田政権のもと「新しい資本主義実現会議」がスタートした。経済界としても目が離せない。「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」がコンセプトとなっている。成長戦略によってわが国の生産性を向上させ、その果実を働く人に賃金の形で分配することで、広く国民の所得水準を伸ばそうというものである。
成長の実現に向けて、民間企業、地域社会、生活者にも意見を聞きながら、来春までにビジョンと具体的な方策の検討を進めることになっている。建設的な議論を期待しているが、是非とも考慮して頂きたい点がある。
第一に、大きな視点からわが国経済の軌跡を振り返ってほしい。この30年間、日本の経済的成長は止まっているといっても過言ではない。国際競争力の観点からもこの停滞を直視し、何故成長できなかったか、しっかりと検証することが必要である。ここを曖昧にしてしまうと、歴史は繰り返される。経済・産業政策だけでなく、民間企業においても過去の成功体験への呪縛など、反省すべき材料は多いと思う。まさに「脱昭和」が必要である。
第二に、成長を阻害する規制やその弊害を徹底して取り除くことを検討してほしい。経済成長を実現する大いなる原動力は民間の力であり、そのための後押し・サポートをするのが官の役割である。デジタル庁に期待するところ大であるが、行政の縦割りの中で苦慮しているとも聞いている。今こそ、官の壁を乗り越える新政権のリーダーシップが求められている。
第三に、成長と分配の好循環は、あくまで成長の結果の果実であることをしっかりと定義してほしい。分配という果実だけを先取りしないよう、政策の優先順位には留意が必要である。企業活動は成長あっての分配であり、その逆は成り立たない。
最後に、GDPの6割、雇用の7割を占める中小企業に対する政策も新たな視点で取り組んでほしい。商工会議所では、大企業と中小企業の適切な関係を再構築すべく、「パートナーシップ構築宣言」を推進している。
デフレ体質の日本においては、仕入れ先、下請け先に値下げや取引条件の見直し圧力をかける「優越的な地位の行使」に徹底して網をかける必要がある。大企業の収益という果実が、下請け先を始めとするサプライチェーンの努力でもたらされたものならば、適正に分配する必要がある。これはコンプライアンスそのものであり、徹底的な順守を求める枠組みを議論してほしいと思う。
新しい資本主義の実現には、高い理想を実現させる強い意志が求められる。孔子の弟子曾子(そうし)は、論語のなかで「士は以(も)って弘毅ならざるべからず。任重くして道遠し。仁以って己が任となす。亦(また)重からずや。死して後已(や)む。亦遠からずや」と言っている。国家経営に携わる方々には、この覚悟と責任が求められている。