“不登校”は教育構造の問題 埼玉初の三部制高校「戸田翔陽高校」の卒業生で文部科学省官僚の藤井健人さん 自身の不登校経験やその後の研究や実践踏まえ
埼玉県内初の三部制高校として誕生した県立戸田翔陽高校の開校20周年式典で同校卒業生の文部科学省官僚、藤井健人さん(31)は、在校生に「自分たちは社会全体ではマイノリティー。同じ環境で過ごした同期の仲間を大切にしてほしい」と呼びかけた。インタビューに応じた藤井さんは、自身の不登校経験とその後の研究や実践を踏まえ、不登校問題は日本の教育構造の問題。学校の在り方を変えなければ解決しないと語った。
■教育格差を研究課題に
―家族を養いつつ、大学院に進まれたのはなぜか。
藤井さん 最初は大学院に行こうとは思っていなかった。大学の同期の人間はみな銀行や商社などを受けていた。自分も就職しようと思ったが興味が湧かなかった。悩んだ末、問題意識を持った不登校や定時制などの研究をしようと、東大の大学院に進んだ。親は経済的負担から大反対したが、生活費も学費も自分のバイトと奨学金で賄っていたので押し切った。大学院では、格差の実態をどうやって制度に落とし込めるかと考え、教育行政を専攻した。
■定時制教諭から行政職
―教員になったのは。
藤井さん 博士課程に行くか迷った。教員になるつもりは当初なかった。周囲は文科省の官僚志望者が多く、公立学校の教員を目指す人間はほとんどいなかった。教育関係者側の多様性が成立しておらず、自分がその隙間を埋める必要があると感じた。あえて夜間定時制の教員を希望し、大宮商業高校の定時制課程に着任した。地歴公民科を教えていたが、生徒とは定時制卒業生としても接し、距離感も近かったと思う。
定時制には定時制ならではの良さがあるという人もいるが、全日制と比べて格差を肯定してしまうことにならないか。全日制と定時制とで社会から与えられた評価は異なっている現実があり、大学等への推薦だけでなく、企業から送られてくる求人票の量と質にも明確な格差が存在する。
どうしろとは言わない。自分自身は今も不登校を乗り越えていないと感じている。私を知る人にとって、私の存在が常に“痛み”を与え続けつつ無視はできないものでありたい。喉に突き刺さった小骨のように。
管野さん 藤井さんの経験は美談ではない。定時制の生徒に対しても、不登校を経験しているからこそ言えることがあると思う。
■働き方改革と表裏一体
―教育の課題について。
藤井さん 不登校当事者、教員、研究者と経験し、教育行政の立場で、自分の問題と向き合い続けている。公教育が担いきれない居場所機能にNPOや民間団体が取り組んでいるが、それは入り口支援。学校から隔離しても出口が見えてこない。
不登校が日本でこれだけ問題になっているのは、公教育が知徳体の領域を全て担っているからだ。明治以来の日本の教育の伝統は、知徳体の同時育成による全人教育にあるとされる。欧米では、学校教育が担うのは「知」のみ、「徳」は宗教、「体」は地域のスポーツクラブが行っている。
日本では学校に適応できないと、社会不適応につながってしまう。日本が抱えている不登校問題は日本の教育構造そのものに根差した問題だ。
社会的自立という目標も、学力に基づいた受験というハードルを超えない限り、そこに達する選択肢を主体的に獲得することは困難なのが実情。不登校の影響を小さくするためには、学校教育の機能を削ぎ落していかないといけない。このままならば、不登校問題が縮小するわけがない。既存の教育構造の枠組みの中で、基礎自治体や学校が不登校問題に対処しようとして、活路を見いだせなくなっている。
それは教員の働き方改革の問題と表裏一体で結び付いている。私は、不登校だったころから感じていたことを言語化しているだけで、私の意見は当時から何も変わっていない。自分の声を学校現場にも教育行政にも届け、意見を伝える努力をしていきたい。