埼玉新聞

 

能登の復興願い「出張輪島朝市」 武蔵浦和駅近くの商業施設で 漆器や海産物扱う輪島の13店舗が出店 「被災地を応援したい」と訪れた人たちでにぎわう

  • 「喜三漆芸工房」で接客する喜三鷹也さん(奥右)=6日午前、さいたま市南区

    「喜三漆芸工房」で接客する喜三鷹也さん(奥右)=6日午前、さいたま市南区

  • 「喜三漆芸工房」で接客する喜三鷹也さん(奥右)=6日午前、さいたま市南区

 さいたま市南区のJR武蔵浦和駅近くの商業施設「マーレ」横で、石川県輪島市の伝統的な海産物や工芸品を販売する「出張輪島朝市」が6、7日に開催された。地元の商店会8店舗と輪島の13店舗が出店し、「被災地を応援したい」と訪れた人たちでにぎわった。今年9月の豪雨で娘の喜三翼音(きそ・はのん)さん(14)を亡くした鷹也さん(42)は、両親が営む喜三漆芸工房の店先に立ち「下ばかり向いていても娘は喜ばない」と漆塗りの食器などを紹介していた。

 鷹也さんは母の悦子さん(64)と2人で参加。艶やかな赤や黒の器が所狭しと並ぶが、素材の仕入れ先も被災し、以前の商品展開はできないという。「被災して自分も仕事に行けず、両親を手伝っている。今も悲しいが、応援がうれしい」と言う。売り場には、被災のニュースを見た人から贈られたという翼音さんのイラストが飾られ、鷹也さんは「似てますね」とほほ笑む。目を引くのは、絵を描くのが好きな翼音さんの「いろいろな色にしたら」という意見で生まれたカラフルなフクロウのカップ。「手作りなので、フクロウの表情も少しずつ違う」と目を細めて勧めた。

 輪島市で長年、海産物の加工販売業を営む南谷良枝商店も出店。今年1月の能登半島地震後、春日部市に一時避難した南谷良枝さん(49)と娘の美有さん(22)らが自信の商品を売り込んでいた。良枝さんは「被災後、昨日の記憶もないくらいの毎日だった」と明るさの奥に苦労をにじませつつ、「前を向いて頑張る私たちの姿を見せ、地元の人々を元気づけたい」と意気込んだ。

 美有さんのお薦めは、輪島のカニを瓶に詰め込んだ「紅ズワイガニイタリアン」で、「パスタにもトーストにもご飯にのせてもおいしい」と太鼓判を押す。今も「工場は傾き、以前と同じ量の作業はできない」と表情を曇らせるが、「商品を待っている全国のお客さんに支えられている。元気な姿で頑張ることが恩返し」と力を込めた。

 「天然の漆の魅力を伝えたい」と話す塗職人の坂正三さん(70)の店先には、伝統的な漆塗りの食器類と、オリジナルの模様の創作的な商品が並ぶ。箸を巻く紙には「感謝」「復興」の文字。地震から間もなく1年を迎える。「時間が過ぎるのは早いが、復興はまだまだ進んでいない」と悔しげだが、「それでもやるしかない。復興には時間と全国からの応援が必要だ」と呼びかけた。

 石川県出身の女性会社員(57)は「家族も被災して大変だったので、近くで朝市が開かれてうれしい」と喜ぶ。輪島塗について「石川にいた時は当たり前だったが、こっちに出てから見ると良さが分かる」としみじみと見入った。

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