<月曜放談>政官の歪みや不祥事は残念 信頼される人になるためには 医療科学研究所理事長・江利川氏寄稿
■わが身を律する言葉/医療科学研究所理事長・江利川毅氏(寄稿)
今回が私の最後となるので、大切と思っている言葉をいくつかご紹介したい。
私にとって初めての課長ポストが内閣参事官、38歳。中曽根総理、後藤田官房長官の下、総理官邸で勤務した。政と官が相互信頼と適度な緊張関係の下にあり、中曽根行革など様々な政策が遂行された。いい時期であったと思う。この頃、「活眼、活学」(安岡正篤著)に感銘を受け、安岡先生の著書など東洋哲学系の本を読み、行政官としての心構えを考えるようになった。
「民は之を由らしむべし、之を知らしむべからず」。人口に膾炙(かいしゃ)している説明は誤りで、「民衆は、本当のこと、十年・百年の計などは分からない。為政者は、それを理解させることはなかなかできないが、あの人のやることだから俺はついていくと民衆から信頼されることはできる」と説明されていた。
私は政治家ではないが、国民から信頼される行政官にならなければと強く思ったものである。政策については、志(目指すところ)、義(内容の正しさ)、恕(対象者に対する思いやり)を基本に据えるように心掛けた。行動については「言忠信、行篤敬」(論語第15編)を大事にしなければと思っている。
中曽根行革を牽引した元経団連会長の土光敏夫氏は、四書五経の一つ「大学」の「日々新たなり」を座右の銘にされていた。土光氏の「信頼」についての話。
「相互信頼を本物にするため、まず自分が他から信頼される人になる。信頼される人になるためには、どのような行動基準が求められるのか。この五カ条はわかりきったことかもしれない。しかし、わかりきったことが、なかなか行えないのである」(以下五カ条)
一、相手の立場になって物を考える
一、約束をきちんと守る
一、言うことと行うことを一致させる
一、結果をこまめに連絡する
一、相手のミスを積極的にカバーする
1970年、高度経済成長が続く一方で公害問題が深刻になっていた時期に、私は当時公害問題を所管していた厚生省に入省した。国民生活の安全安心のために公害対策を強力に進めたいと思っていた。規制強化への抵抗はあったが、「後輩(=自分)の存在意義は、先輩を乗り越えるところにある」と自分に言い聞かせて頑張った。その気持ちは今でも変わっていない。
最近、政と官の関係が歪んできているように感ずる。国民の声を踏まえて政策決定するのが政の役割であり、政策の選択肢を示し、決定された政策を実行するのが官の役割である。相互信頼の下に、車の両輪のように一体となって動くべきものである。政官関係の歪みや官の不祥事のニュースは残念でならない。良書を読んで、官僚の後輩には矜持(きょうじ)を持って頑張ってもらい、政治家には真のリーダーシップを考えていただきたいと思う。