<月曜放談>コロナ危機から未来へ 「新しい価値」生み出す潮流を 埼玉りそな銀行会長 ・池田一義氏寄稿
■危機から未来へ/県商工会議所連合会会長、埼玉りそな銀行会長・池田一義氏(寄稿)
依然としてコロナの終息を見通せないなか、カミュの小説「ペスト」が読まれていると聞き、初めて手にした。ペストと闘う医師を中心にさまざまな市民が描かれており、歴史の一幕と現在の状況が交差して、さまざまな思いや考えが沸き起こった。
文中に「ペストと戦う唯一の方法は誠実さということです」というくだりがある。医師である主人公がペストという困難に正面から向き合い、市民も主人公とともに感染対策に真摯(しんし)に取り組む姿が、コロナ禍の今と重ね合わさって強く心に残った。
コロナはわれわれに悲痛な悲しみや不自由さをもたらしたが、新たな気づきの機会ともなった。テレワークのような新しい働き方や、ケータリングや宅配、越境ECなどのビジネス手法も浸透し、さまざまな業種で多くの人たちが起業している。
また、既存の事業をゼロベースで見つめ直し、将来に向けて新たなビジネスへ挑戦する企業も多い。喜ばしい限りである。いまの社会や自分に必要なものは何か、しっかりと見極め、未来に向けて「新しい価値」を生み出す原動力になってほしいと思う。
歴史をたどると、わが国においては古事記の「崇神朝の疫病」が神道確立の契機とも言われている。古代ギリシャではアテネの疫病がソクラテスなどの思想家を育て、ローマ帝国のアントニウスの疫病はその衰退の始まりとも言われている。
14世紀のペストはルネサンス文化誕生の契機となり、近世では、コレラが都市インフラの整備やその後の産業革命への潮流をつくり、スペイン風邪は戦争の終結を早めた。いずれも、感染症が直接的要因ではないにせよ、新しい時代の潮流をつくる契機の一つとなったことを示している。危機は未来へ進むための大きなチャンスとすることができる。
論語に、「歳寒くして然る後に松柏の彫むに後るるを知る」とあり、大事に遭遇して初めて、(その人や企業の)真の価値が現れると説いている。また、「人にして遠き慮り無ければ、必ず近き憂い有り」とあり、遠い将来を見据えて行動する必要性を説いているが、これも企業にあてはめることができる。今こそ、コロナ禍を乗り越え、未来に向けて個人も企業も動き出す時がきているのではないだろうか。
デジタルと人間が融合した新たな潮流も加速する局面を迎える、新しい経済・社会の構築に向け行動する年にしたい。明るい日本を創るために。そして誠実に。