埼玉新聞

 

<月曜放談>反響!男性トイレにごみ箱を 声を上げれば社会が変わる 日本骨髄バンク評議員 ・大谷氏寄稿

  • 大谷貴子氏

 私は自分の白血病体験から、医療問題にどっぷりつかっている今、多くの患者さんからさまざまな相談を受ける。病気そのものの相談から病院を変わりたい―まで多岐にわたる。その時に大阪出身の私がかける言葉が「じたばたせな、あかん!」「じたばたしたら、ええやん!」「誰の命でもない、自分の命やねんから…」とハッパをかける。その言葉を自らにも課してきたように思う。

 私の人生の中で最もじたばたしたことは、白血病になり、助けを求めたことだったろう。それが骨髄バンクの設立につながった。あれから30年。振り返ってみると延べ88万5千人の方が、骨髄バンクに登録してくださっており、2万6400人の方が骨髄液を提供してくださった。

 また、自身の経験もあり、15歳から39歳までに発症する若いがん患者さんの支援をしているが、今までは病を得ても心身ともにお元気になられる患者さんへの支援だった。しかし、終末期を自宅で最期まで過ごすための支援がないことに声を上げた。2019年10月、32歳の姪(めい)のスキルス胃がんの発症がきっかけだった。

 姪は4歳の双子のママ。一日でも一分でも子供たちと一緒に長く過ごしてほしかった。じたばた情報を集めて、横浜市での支援を知る。そして、他地区でもその支援を、と最初に声をあげた日が姪が亡くなった20年1月23日。すぐにさいたま市が動き、21年7月に患者さんへの支援(同年12月までに4人に助成)が始まる。同9月にも加須市での支援も始まった。もちろん、誰一人としてこの支援を必要としないことを願うが、必要としている人が一人でもおられるなら、誰一人取り残さない社会を望む。

 また、日々の生活の中で、今や欠かせないWi―Fi整備。しかし、全国のがん診療拠点病院の2割にしか患者さんが使用できるWi―Fiが整備されていないという現実。21年1月に「これは変だ!」と声を上げた当初、埼玉県立の4病院にも患者さんが使用できるWi―Fiは整備されていなかった。

 しかし、私たちの訴えを聞き入れてくれた県議の方々の後押しもあり、すぐに埼玉県立小児医療センターに整備された。親と離れて闘病する子供たちの笑顔につながった。埼玉県立がんセンターでも使用に一定の条件はあるけれど、整備された。苦しいがん治療の励みになればと願う。

 男性患者さんからも切実な声を聞いた。膀胱(ぼうこう)がんや前立腺がんの手術後の男性患者さんに必要な尿漏れパッドを公衆トイレで捨てるところがない―という声だ。男性トイレにごみ箱がないことにもびっくりしたが、そのことを誰も問題にしてこなかったことにもびっくりした。

 このことを当欄に投稿したところ、これまでの7回の投稿原稿の中でダントツの反響だった。この件で県議の方から連絡が入り、県議会で改善するよう県に要望してくださった。私が住む加須市でも、この記事がきっかけで、市役所内の男性トイレのごみ箱設置がかなった。

 社会生活の中にある“不便さ”に、皆さん、気づいていなかっただけ?

 いや、気づいても声を上げる人がいなかっただけ?

 私は何でも気になるとすぐに声を上げる。じたばた声を上げれば、多くの人が動き、社会が変わる。最終回で改めて皆さんに伝えたい。「何でも、じたばたせな、あかん!」

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