埼玉新聞

 

5歳男児が死亡…店で叱責され続けていた 異変を感じた保育士ら「心理的虐待では」…数日後、床下に遺体が

  • うずくまって顔を伏せる母親=6日午前8時すぎ、寄居署

 本庄市の自宅床下に5歳長男の遺体を埋めたとして母親ら男女3人が逮捕された事件。発覚後、亡くなった長男を知る関係者らから聞かれたのは「心理的虐待に遭っていたのでは」という疑問の声だった。専門家は、子どもが受けている心理的虐待を察知することは難しい場合もあるとしつつ、行政や児童相談所と保育園などの児童福祉施設の連携を強化したり保護者をサポートする施策の必要性を訴えている。

■相談件数の6割

 通っていた保育園によると、長男は目立った外傷やあざもなく、病気を患うこともなかった。しかし、同園は長男と意思疎通ができない時があることや、描いた絵が5歳児にしては稚拙だったことなどから、精神的な問題を抱えている可能性があることを疑い、市などに相談。長男らが訪れた飲食店店主も店内で長時間叱責(しっせき)されていたことを市に相談していた。

 しかし、市などは母親らとの面談の後、「虐待を疑わせる兆候は認められなく、母子の関係は良好」と判断。保育園などに見守りを依頼するだけで具体的な行動に出ることはなかった。

 県こども安全課が発表している2020年度の県内児童相談所における児童虐待相談対応状況によると、相談対応件数は1万6902件。19年より571件(3・3%)減少しているが、統計を始めた00年から増加傾向が続く。内容別では心理的虐待が62・7%を占め最多。身体的虐待が22・6%、保護の怠慢(ネグレクト)が13・8%、性的虐待が0・8%だった。

■潜在化し悪影響

 埼玉学園大学子ども発達学科の尾形和男教授は、心理的虐待について「身体的虐待とは対照的に外見の異常が分かりづらいため、察知することが難しい」と話す。

 尾形教授によると、心理的虐待は子どもに言葉で脅しかけたり、面前で夫婦げんかの様子を見せたりすることが例として挙げられる。虐待を受け「親から愛されていない」と感じた子どもは表情が乏しくなったり、成長ホルモンの不足による身長の伸びの低下など目に見える影響が出ることもあるが、心理的虐待は分かりやすいサインがないため潜在化してしまうという。

 心理的虐待は、正常な発達状況にある子どもよりも知能や理解力の不足が見られるほか、社会的行動や対人関係に支障が出て、内向的な性格になる可能性があり、「決定的に悪影響を及ぼすのは間違いない」と指摘する。

 潜在化してしまう実態を把握するには、子どもの様子をより深く観察することが必須とされる。他人の目が届かない家庭内での生活を知ることが一番の近道だが、プライベート空間に踏み込むことはハードルが高いため、「現実的にできることとして、子どもが通っている児童福祉施設と行政や児童相談所がより連携し、わずかなSOSをキャッチできる態勢を強化することが求められている」と尾形教授は話す。

 さらに、保護者が虐待に及ぶのは子どもとの意思疎通がうまくできないことが一因とした上で、「子どもとの正しい接し方を伝える講習会や悩みの相談など、保護者側に寄り添う施策も必要」と強調した。

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