埼玉新聞

 

給食の保護者負担分、食材費の高騰が揺さぶる 値上げ分は国の臨時交付金を充てるも…給食無償化、歳入なければ「歳出を削るしか」 19日告示、川越市長選/川越の選択(上)

  • 街頭で署名活動を行う渡辺さん(右)ら=2024年12月

    街頭で署名活動を行う渡辺さん(右)ら=2024年12月

  • 街頭で署名活動を行う渡辺さん(右)ら=2024年12月

 19日に告示される埼玉県の川越市長選は、新人4氏が出馬準備を進めている。選挙戦では、硬直化する市財政の立て直しなどが論戦のテーマとなる見通しだ。学校給食費の無償化や企業誘致を取り上げ、市の未来を展望する。

 「学校給食無償化は、全ての子どもがお金の心配なく、良質な食事を取ることができる良さがあります」。しみ入るような冷気に包まれた2024年12月22日。川越市のJR川越駅前には市民グループ「学校給食無償化をめざす川越みんなの会」のメンバーが、給食費無償化を求め署名活動を行う姿があった。

 会の共同代表を務める渡辺浩伸さん(59)はタクシー乗務員。家庭では中学3年と小学5年の子どもを育てている。1カ月当たりの給食費は2人分で計9600円だ。「住む自治体によって子育てに格差があるのは好ましくはない」。既に無償化を実施している所沢市や坂戸市の例を引き、渡辺さんが説明する。

 保護者の労働時間の短縮にもつながる、との見方も示す。「仕事から家庭に帰り、子どもたちと触れ合う機会も増えるのではないか」。渡辺さんは語る。

■食材費15億円

 川越市内の市立小中学校と特別支援学校では、1日約2万8千食の給食が提供される。給食の運営には、市内に三つある給食センターの維持管理や消耗品の調達などに年間約15億円を要し、学校給食法に基づいて市が負担する。

 保護者が負担しているのは食材費で、川越市の場合は約15億円に上る。献立には川越産精白米「彩のきずな」をはじめ、ホウレンソウやサトイモなど地元産の食材をできる限り使用しているという。

 1カ月当たりの保護者の本年度負担分は小学生が4350円、中学生は5250円と設定されている。

 この設定額を、近年の食材費の高騰が揺さぶる。23年度は国の地方創生臨時交付金約7千万円を、値上げ分に充てた。市の担当者は「24~25年度にはこの規模を超えるだろう」と推算し「(別の献立を加えるなどの)色を付けての給食の提供は難しくなる」と話す。

■経常収支比率99・8%

 川越市は、財政構造の弾力性を示す経常収支比率が99・8%(23年度決算)と非常に高い。地方税などの「経常一般財源収入等」が、22年度から4億4千万円減少したことが要因だ。

 市の本年度一般会計予算は1300億円余り。不況や災害などの対応のために積み立てておく財政調整基金は23年度末で77億円あるが、本年度予算に56億円を取り崩している。市の担当者は「義務的経費以外に使う財源としては、余裕がない状態だ」と説く。

 硬直化する財政の中で、いかに給食の負担分を捻出し得るのか。担当者は「給食費無償化には、それに見合った恒久財源が必要だ」と説明。歳入が見込めない場合は「歳出を削るしかない」と続ける。

 川越市周辺の自治体では坂戸市が23年度から、所沢市は昨年1月から、それぞれ小中学校の給食費を無償化した。坂戸では本年度に約3億8千万円を負担し、所沢では当初予算で約12億6千万円を組んでいる。

 給食費無償化には国政も動きを見せる。24年12月には立憲民主、日本維新、国民民主の野党3党が、無償化に向けた学校給食法の改正案を共同で衆院に提出した。

 「みんなの会」によると、無償化に向けた署名は、10日時点で1486人分が集まったという。

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