埼玉新聞

 

おいしいパイ、何度もおかわり 埼玉・川口に中国料理振舞う子ども食堂、高齢者と外国系住人の交流も目指す

  • 世界料理厨房の料理を味わう食堂の利用者ら=1月、川口市

 高齢の日本人住人と若い外国人世帯との二極化が進む川口市芝園町のUR機構・芝園団地(2454戸)では夏祭りや交流会を通じ、自治会や学生グループなどが多文化共生や多世代交流に取り組んでいる。今年はURと川口こども食堂が協力し、子どもの居場所づくりと住人同士の交流促進を目指す新たな子ども食堂「世界料理厨房(ちゅうぼう)」をオープン。1月の初回は中国東北地方名物のパイや日本の煮物、3月12日の第2回は中国の麺料理と日本の太巻きが振舞われ、世代や国籍を超えた共存の輪が広がりつつある。

 初回は約26人が利用。40代の主婦は「手が込んだ料理でおいしかった」と笑顔で話し、幼い息子2人はパイを何度もおかわりした。第2回は子ども11人を含む32人が利用。ボランティアも2倍以上に増え、チラシを見て食堂を利用した高齢者もいた。

 同団地は1978年に整備された。日本人住人の高齢化が進む一方で2000年ごろから中国人を中心とする外国人住人が増加し、現在では居住者の約半数を占めるように。URによると、住人間でごみの分別や騒音を巡る問題が頻発。ごみについては分別などのルールの掲示を多言語化し改善したが、騒音問題は継続しており、担当者は「住人同士が顔を合わせ、声をかけ合える関係が必要」と説明する。

 URと川口こども食堂は県の紹介をきっかけに19年から交流を開始し、同団地での食堂実施に向け協議を重ねてきた。同食堂代表の佐藤匡史さん(49)は「世界料理厨房が共働き中国人世帯の子どもの居場所となり、将来的には高齢の日本人住民にも運営に加わってほしい」と思い描く。

 長年、外国系住人の多い川口市内で活動してきた佐藤さんにも「文化の違いから不安もあった」という。外国人住人にとっては「最初の一歩」のハードルが高く、「施しを受けたくない」「私たちが行ってもいいのか分からない」との理由から子ども食堂にあまり足を運ばなかった。

 鍵となったのは、外国人コミュニティーの中心人物との協力。世界料理厨房の運営チームにも自治会を通じ中国人住人が参加した。その一人、武田美慧さんは「経験がない中で一から準備するのは難しかったが、皆で一生懸命に実現させた」と振り返る。団地に住む中国人の多くは仕事や子育てで手一杯で、活動への理解や参加が得にくく、ボランティアという言葉に「政治家でも目指しているの?」という反応が返ってくることもあった。

 一方、高齢の日本人住民からは「子どもが苦手だ」と言われたことがあり、隔たりを感じていたという。「ただ食堂を開くだけではなく、中国人は子どもと一緒に楽しめて、日本人はそれぞれの特技を生かして何かを教えるなど、交流が生まれる場であるべき」と武田さん。

 学生グループ「芝園かけはしプロジェクト」のメンバーで、初回にボランティアとして参加した中国出身の女性は「コロナ禍で団地住人同士が対面で交流する機会が減っているが、共生を推進するにはつながりを維持することが大切」と語る。食堂が目指す若い中国人と高齢の日本人の交流については「高齢者の日本語は聞き取りが少し難しく、外国人は自信を持って交流しにくい」と指摘した。

 2回の子ども食堂を通じて「世代や国籍を問わず共存する雰囲気が出てきた」と手応えを得た佐藤さんは「県内にはシリアやクルドを巡る紛争を逃れてきた人が多く、今後はロシアのウクライナ侵攻を受けて難民が増えるかもしれない。困っている人にとっての居場所となれば」と語った。

 ボランティア参加などについての問い合わせは、運営事務局(電話080・5047・6756)へ。

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