埼玉新聞

 

大宮駅西口と90年 団子、のり巻きの「かどや」 無性に食べたくなる懐かしい味、昼過ぎにはほぼ完売

  • 店主の関本真也さん(左)と、「ここでかんぴょうのおいしさに目覚めた」という職人の佐藤綾さん(右)、広報担当の金井彩さん=大宮区桜木町4丁目のかどや本店

  • かどやの顔、2代目の関本光夫さん=大宮区桜木町2丁目の大宮店

 大宮駅西口、ソニックシティ北側の路地に入ると、創業約90年の町の団子屋かどや大宮店がある。同所から北与野駅方面へ向かって徒歩15分の中央通り沿いには工場を兼ねた本店も。団子をはじめ、餅、赤飯、のり巻き、焼きそば、おにぎり、おいなりさんを一つ一つ手作りしている。歴史が詰まった「懐かしい味」は毎朝、ショーケースいっぱいに並ぶと昼過ぎにはほとんどなくなってしまう。

 元々は大宮店に近い、再開発工事中の道路に面して店があり、名物のつぼ焼き芋を手がける八百屋から始まった。嫁いできた関本みよさん(享年82)は料理上手で、1933(昭和8)年に団子屋を始めた。「出したら、出しただけ売れる」が口ぐせだった。

 2代目の光夫さん(71)は厳選した材料で味を守り、店に立ち、大宮駅西口の発展を間近で見てきた。「当時は商工会議所の7階建てビルが一番高い建物だった」と昭和の時代を振り返る。

 平成となり、駅周辺にはダイエーやそごうが建ち、行き交う人も増えた。「商いが分散していった。コンビニも増え、小売りは大変。息子は2人とも、外へ勤めに出た。町の再開発の波もやってきた」と話す。今では大宮店の顔となった光夫さん。「いろいろあったね、もう引退だよ」と笑い、息子の3代目真也さん(32)に全幅の信頼を置く。

 好奇心のかたまりで、親方気質の真也さんは物心ついた頃から父母の働く背中を見てきた。毎日学校から帰ったら店へ直行。「店の手伝いは当たり前、気になるものもいっぱいあったな」。次男ということもあり、自身が継ぐとは思っていなかった。工務店に勤務し、そろそろ一人立ちかという矢先の2018年、光夫さんが倒れた。家業の手伝いを買って出た真也さんだが、父から団子屋としてのいろはを教わったわけではなかった。

 長年通ってくれるたくさんのお客さんから店をやめないでくれという声に強く後押しされ、継ぐことを決意したものの、当の店はビル建築予定地で退去期限が迫っていた。かどやの独自性を守りつつ、製造工程がかなう店舗の場所を探し、同時に毎日夜明け前から仕込みをした。「一気に押し寄せて噴き出してきた」と背負ったピンチを振り返る。さまざまな苦難を乗り越えて本店は3年目を迎えた。「かどやは自分だけのものではなく、スタッフみんなで盛り上げていきたい。味には絶対の自信がある」と胸を張る。

 ネットを駆使したり、デパートやショッピングモールへ出店も。コロナ禍になり、新しい手法に手応えを感じている。広報担当は幼なじみの金井彩さん。「息子はここのおいなりさんでないと食べない」と明かす。

 「何が残ってるかな…」と入ってきた近所の海老原広美さん(58)は「やっぱり、無性に食べたくなるのでよく休日に寄ります」とにっこり話した。

【メモ】本店=大宮区桜木町4の482の17、大宮店=同桜木町2の191、電話048・642・1502。

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