埼玉新聞

 

妻子を殺害された男性「不審者逃走、県警が周辺住民に知らせなかったのが原因」…県警反論 あす注目の判決

  • さいたま地裁=さいたま市浦和区高砂

 熊谷市で2015年9月、男女6人が殺害された事件で、県警が不審者の逃走などを周辺住民に知らせることを怠ったためにペルー国籍の男(36)=強盗殺人などの罪で無期懲役=に妻子3人を殺害されたとして、遺族の男性(49)が県(県警)を相手取り慰謝料など約6400万円の支払いを求めた国家賠償請求訴訟の判決が15日、さいたま地裁(石垣陽介裁判長)で言い渡される。地域に衝撃を与えた事件を巡って司法がどのような判断を下すか注目される。

 男は事件前に熊谷署から走り去っており、県警が事件の危険性を認識できたか、防災無線などで注意喚起していれば被害を防げたか、県警に情報提供の義務があったかが争点。事件をきっかけに自治体や警察が防犯情報を提供する「熊谷モデル」が県内に広まっており、裁判ではこれ以前の情報提供の体制や当時の県警の対応が改めて問われた。

 訴状などによると、男性側は県警が15年9月14日に起きた殺人事件の参考人として、翌15日未明に男を全国に手配したことなどから、「さらに事件が生じる危険を認識していた」と主張。無線などで住民に注意喚起しなかったのは、警察権の不行使であり違法としている。男性の妻加藤美和子さん(41)、長女美咲さん(10)、次女春花さん(7)=年齢はいずれも当時=は16日に自宅で殺害された。

 訴訟では18年11月から今年1月まで約3年2カ月にわたり、計16回の口頭弁論が開かれた。

 県側は事件前に男を熊谷署に連れてきた際、「困り事相談者として扱った」として、不審者の認識はなかったと反論。全国手配したものの、事件との関わりはその時点で不明だったとした。証人尋問では当時の県警幹部らが出廷し、同種の事件が連続発生する危険性は「想定していなかった」、防災無線を活用した注意喚起については、「それまでやったことがなかったので考えつかなかった」などと証言した。

 当時の県警刑事部長の男性は証人尋問で、「その人に具体的な危害が迫っているのか分かっていない中で、根拠もないのに『あなた、殺されるかもしれない。家に閉じこもってください』と言えば、無用な不安感を与える。デメリットが大きい」と説明。また、「オオカミ少年」の例えを挙げ、不審者情報を多用することにより、「それが一般的になると、(住民の)心に伝わらなくなる。警察がアリバイのためにやるのは県民のためにならない」と述べていた。

 事件では男と全く面識のない6人が相次いで殺害され、地域の防犯に深刻な課題を投げかけた。情報提供の在り方については当時、多くの市民、県民から批判が相次ぎ、県警は報告書を作成して対応を検証。直轄警察犬の導入や通訳体制の整備、交流サイト(SNS)を活用した防犯情報の提供などさまざまな対策に取り組んだ。

 原告の男性は幹部の証言に、「こういう場を通してではないと聞けないことがあった」としつつ、「真実を話していないのではないか」と疑問を持つ。県警に対しては「家族に謝罪してほしい。それ以外考えていない」としている。

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