埼玉新聞

 

死亡した娘、21歳の若さ…成人式で晴れ着姿なのに「寂しげな顔」と父、ストーカーの悲劇を語る 襲われた娘、天国から“もういいよ”と聞こえるまで…母も苦しんだ日々を語る「泣いていても娘に申し訳ない」

  • 跡見学園女子大学の講義で、幼少期の猪野詩織さんの写真が紹介された=21日午後、新座市

    跡見学園女子大学の講義で、幼少期の猪野詩織さんの写真が紹介された=21日午後、新座市

  • 跡見学園女子大学の講義で、幼少期の猪野詩織さんの写真が紹介された=21日午後、新座市
  • 事件や犯罪被害者支援の活動について語る母親の猪野京子さん(右)と父親の憲一さん

 1999年に起きた桶川ストーカー殺人事件で長女の猪野詩織さん=当時(21)=を亡くした父親の憲一さん(74)と母親の京子さん(74)は21日、詩織さんが通った跡見学園女子大学(新座市)で講義した。憲一さんはストーカー被害や警察、マスコミに苦しめられた経験を振り返り、「地域で安全の壁を張り巡らせ、ストーカー事件をなくそう」と呼びかけた。

 講義は「現代ジャーナリズム論」で、学生約160人が参加。猪野さんらの講義は今回で11回目という。

 両親は冒頭、詩織さんの人柄を過去の写真で紹介。成人式の晴れ着姿の写真について、憲一さんは「寂しげな顔。ストーカー被害に耐えていた詩織だ」と説明した。

 詩織さんは元交際相手の男らから付きまといや中傷ビラなどの嫌がらせを受け、99年10月26日、JR桶川駅前で殺害された。事件後、遺族はメディアスクラムなどに苦しみ、刑事裁判の被害者参加制度がなかった当時、法廷で言葉を述べることもできなかった。事件は国会などで取り上げられ、ストーカー規制法は詩織さんの誕生日の2000年5月18日に成立した。両親はその後も講演や犯罪被害者支援の活動を続けてきた。

 憲一さんは「ストーカー被害は減らず、訴え出られなかった被害も含めると実際はさらに多いだろう」と指摘し、「『お父さん、もういいよ』という声が聞こえたらやめようと思うが、まだまだ足りない」と活動継続への意欲を示した。

 詩織さんにプレゼントされたセーターを事件以来初めて着たという京子さんは「泣いてばかりいても娘に申し訳ない。(他の)被害者の役に立てれば、娘への供養になる」と話した。

 講義を聞いた1年の藤川珠季さん(19)は「どこにでもいるすてきな女の子だったのに、21歳の若さで亡くなった詩織さんを忘れてはいけない。自分にも(同様の)危険が起こり得ると再確認した」と防犯への意識を高めていた。
 

ツイート シェア シェア