埼玉新聞

 

既成政党の壁破る 与野党相乗りに反発 埼玉有数の観光地・川越 森田氏が市長に初当選 16年ぶりの新顔は初の女性市長 投票率は33・66%で前回から11・61ポイント上回る

  • 初当選を決め、花束を持ち喜ぶ森田初恵氏=26日夜、川越市内

    初当選を決め、花束を持ち喜ぶ森田初恵氏=26日夜、川越市内

  • 初当選を決め、花束を持ち喜ぶ森田初恵氏=26日夜、川越市内
  • 【地図】川越市(背景白)
  • 当選証書を受け取る森田氏

 任期満了に伴い26日投開票された川越市長選で、無所属新人で元裁判官の森田初恵氏(42)が、元県議の山根史子氏(40)=自民、立民、国民推薦、元市議の樋口直喜氏(41)、元市議の小野沢康弘氏(70)の無所属新人3氏を破り初当選した。山根氏の与野党相乗り態勢を見据え、「既成政党の壁に立ち向かう」と強調。保守の支持層が分散した選挙戦で幅広く浸透した。「市民のための政治を行う」と語る森田氏。16年ぶりに新顔となったリーダーには、硬直化する市財政の立て直しが喫緊のテーマとなる。

■分散

 「おめでとう―」。森田氏の初当選が確実となった26日午後11時半、川越市小室にある選挙事務所は歓声や拍手に沸いた。森田氏は「幅広く市民に支えてもらい、既成政党の枠を超え誠意を受け取ってもらえた」と喜びを語った。

 森田氏は15年務めた裁判官を2024年6月に退官した。4氏の中で最も早い同8月、出馬を表明。市内の農業団体や建設団体を回るなどし、知名度の浸透を図った。

 森田氏の支援者には自民の女性県議をはじめ、保守系関係者らが集った。対立候補の樋口氏と小野沢氏も、それぞれ複数の保守系市議から後押しを受けていた。

 衆院選後の24年11月。自民県連は山根氏に「推薦」を出した。「野党系」の道を歩んできた山根氏をサポートするという県連の対応に、地元の自民関係者は困惑を深めた。同11月には党川越支部長の中野英幸衆院議員(比例北関東)が、支部の推薦する立候補予定者に推薦を出すよう求める嘆願書を県連に提出した。

 保守層の支持は、森田氏を含めた4人の候補者に分散する形となった。ある自民関係者は告示前、「自主投票のような形になっている」と明かした。

 選挙戦で森田氏は、山根氏への与野党推薦に対し「国政では違うことを言っている人たちが相乗りしている。市民は困惑している」と批判を強めた。森田氏陣営の関係者は、勝因について「相乗りへの反発は強かった。保守や、相乗りに反発した人たちが重なった」と分析する。

 「選挙戦の終盤には若い層からもエールが届いた」と森田氏は言う。

 次点で敗れた山根氏は26日夜、取材に「各政党からの推薦は市民と市政のために良い体制だったと思うが、それを伝えきれなかったのかもしれない」と振り返り、「森田氏は粘り強さがあった」と印象を語った。

■共通の課題

 財政構造のしなやかさの度合を示す経常収支比率が99・8%(23年度時点)と、非常に高い川越市。硬直化が進む財政の立て直しは、立候補した4氏のいずれもが訴えた共通かつ喫緊の課題だ。

 森田氏は財源基盤の強化策として、企業誘致の推進を提唱。学校給食費の無償化の実現やデマンド型交通の充実などを掲げている。市の関係者は「しがらみのない、市民の声を聴く市長になってほしい」と求める。

 政治経験を持たない森田氏にとって、市議会との議論も初めての舞台となる。選挙戦では複数の市議が、対立する3氏の陣営をサポートした。「まずは市議から話を聞かせてもらい、何が市民のためになるのかを一緒に考えたい」と森田氏は話す。

 投票率(33・66%)は飛躍的にアップした。過去最低だった前回市長選(22・05%)を11・61ポイント上回った。投票数の3分の1に当たる3万3135票を獲得した森田氏は「現職が辞め、次の川越に関心を持って1票を投じてくれた結果だ」とみる。

 1922年の市制施行以来、同市で初めての女性市長に就く森田氏。蔵造りの町並みを擁する県内有数の観光都市には、オーバーツーリズムへの対策も求められる。誠実な政治手腕に、注目が寄せられる。

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