「メニューは半分」「洗い物を減らすため鍋を使う料理は中止」 道路陥没、現場近くの飲食店 節水、長期化の恐れ 避難所では炊き出しも
八潮市二丁目の交差点で道路が陥没し、トラックが転落した事故から3日目を迎えた30日、現場では陥没した穴の中に取り残された男性の救助活動が続いた。同日未明には、2カ所あった陥没箇所の間にある道路も新たに陥没し、穴が一つになり拡大。二次災害の恐れから復旧は進まず、下水の利用自粛は県東部を中心に約120万人に上り、一部地域ではガスが使えない。節水など日常生活の影響は長期化する恐れが高まり、住民から不安の声が上がっている。
■120万人が対象
県や消防によると、道路が陥没してできた新たな穴は直径約20メートル。穴の中にはがれきや信号機、電柱が確認できたほか、水も噴き出しており、男性(74)が取り残された運転席も土砂などに埋没しているとみられる。今後も陥没拡大などの二次災害が起きる可能性があり、慎重な作業が求められるという。
県内12市町の約120万人を対象に、下水道の利用自粛が呼びかけられている。県はホームページで、「歯磨きは水を出しっ放しにせず、コップに水をためてゆすぎましょう」「お風呂の残り湯を洗濯、洗車、植木の散水などに利用しましょう」としている。さいたま市は「洗濯機の使用回数を減らしてください」「お風呂では浴槽にペットボトルを沈めて水をかさ増しする」「トイレの大小レバーは使い分けてください」としている。
八潮市は救助活動で水道管を傷つける可能性があるため、30日午前8時から、付近の上水道の一部を一時停止した。水は利用できるが、水圧が変わり水が濁るなどの影響が出る可能性があるという。
八潮市役所付近の中華料理店では、昼食時にもかかわらず、大きな中華鍋が空のまま。店長の男性(52)は「洗い物を減らすため鍋を使う料理は中止し、メニューは半分以下になった」と説明。水道の緊急停止を受けて濁った水が出る可能性があるため、透明なコップに注いで透明度を確認していた。
道路陥没が起きた交差点から約300メートルの場所にある八潮市中央1丁目、「洋中食堂りゅうしょうえん」のオーナー池島将克さん(44)は「いつ復旧するか分からない」と苦しい心中を語った。
上水道の一時停止による店舗の影響はなかったという。「口の中に入るものなので気にしているが、圧力も特に変わらない」と話す。県の方針に従い、食器を洗う水やラーメンをゆでる鍋の水を減らすなど、節水を工夫している。「店で水を使わざるを得ないため、生活で我慢している。早く救出し復旧工事にかかってほしい」といら立ちを見せた。
■近隣住民ら避難
八潮市は29日未明、ガス管損傷の可能性があるとして、陥没箇所から半径200メートル範囲の住民に避難を呼びかけた。避難所の市立八潮中学校体育館には、30日午後5時時点で約20人が避難している。
避難所では間仕切りスペースが用意され、保存食や弁当が提供されている。段ボール製のベッドも整備され、市保健センターの保健師による体調確認が行われている。
避難生活で不便なのは入浴だ。近隣の複数の入浴施設では、避難住民を対象に入館料を半額~無料にする支援を行っている。同校に避難している竹内将五さん(81)と妻(80)は、支援を受けられる入浴施設に向かうと言い、「風呂に入れないのでありがたい。すごく助かります」と話した。
避難所では29日夜と30日朝、キッチンカーによる炊き出しも行われた。昨年12月に市と協定を締結した地元団体が市の要請を受けて、から揚げや野菜炒めを詰め合わせた弁当20食を避難者に提供した。提供を行った一般社団法人「The Yashiostyle」(ヤシオスタイル)の福元伸吾代表によると、避難者は疲れている様子だったが、「温かいものをありがとう」と声をかけてくれたという。
さいたま市北区の温浴施設「おふろcafe utatane」では29日と30日、下水の使用自粛要請が出ている地域住民の入館料を半額(小学生以下は無料)とした。支配人の溝江卓登さん(33)は「日常に支障が出ている場所もあり、不安に感じている人も多いと思うのでゆっくり過ごしてほしい」と話した。
■ガス、電話も停止
東京ガスは29日夜、二次災害防止で、現場近くの計130戸で都市ガスの供給を停止した。職員が世帯を回り、ガスの弁を閉じるなど対応に当たっている。市はガスが使えない当該世帯の住人を対象に、市内の入浴施設の利用を検討している。近所の60代女性は「食事が作れない。先行きが不安」と顔を曇らせた。
NTT東日本埼玉支店によると、陥没により一部ケーブルが切れ、周辺では固定電話約400回線、インターネットで使用する光アクセスサービス約1300回線が利用できない状況が続いている。