<新型コロナ>出口はいまだ見えていない…埼玉・秩父の観光地、にぎわい見られず 規制ないGWも不安視
県外への移動や外出自粛が呼びかけられない3年ぶりのゴールデンウイーク(GW)。埼玉県秩父地域の観光事業者たちは、感染対策に気を配りながら、観光客の受け入れ態勢を広げているが、連日の天候不良などが影響し、集客に苦慮する事業者が目立っている。また、毎年GWに開催する数々の伝統行事は感染拡大を懸念し、3年連続の中止が相次いだ。規制解除で人々の日常生活は回復しつつあるが、秩父地域の観光、伝統産業関係者は「コロナ禍の出口はいまだ見えていない」と不安視している。
■人が集まらない
大型連休に入った4月30日午前10時過ぎ、長瀞町の岩畳周辺はにぎわいが見られず、観光客の姿はまばらだった。「長瀞ラインくだり」を運営する秩父鉄道(本社・熊谷市)観光事業課の杉山章さん(58)は「規制が解除され、客足回復を期待しているが、思った以上に町に人が集まっていない」と表情を曇らせる。
町の名物「川下り」は、荒川の春の渓流美を楽しめる4~5月に、最も利用者が集まる。杉山さんは「コロナ禍前までは、案内所前に車の列が絶えず、日中、交通整理に追われていた。ここ2年間はまともな営業ができず、今年は人員や送迎バスの態勢を強化して臨んだが、客入りは例年の半分以下」と語る。
町に観光客が少ない理由を、杉山さんは「県外への移動が解除されたことで、県内客の多くが遠隔地に出かけていってしまったのではないか」と推測する。昨年、一昨年は、気軽に出かけられる観光地として、秩父地域を訪問する県内観光客が多かった。「3日から始まる連休は、秩父地域で観光を楽しんでほしい」と、町の観光事業者は期待する。
長瀞駅前の観光情報館で利用できる「レンタサイクル」の予約数は4月30日時点で2件。コロナ禍前までのGW期間は10件以上の予約が入っていた。運営する町観光協会の田島茂行事務局長(48)は「長瀞は日帰りの観光客が多いため、天候に大きく左右される。雨などが影響し、4月末の観光客は減少した」と話した。
■感染者出せない
秩父地域のGWを盛り上げる、塚越の花まつり(秩父市)、津谷木のお天狗(てんぐ)様・歌舞伎奉納(小鹿野町)などの伝統行事は、感染拡大を考慮し、今年も開催を見送った。8日に横瀬町町民会館で予定していた「横瀬の人形芝居」も、町内感染者がいまだに収まらないことから、急きょ4月中旬に中止が決まった。
横瀬人形芝居保存会の若林新一朗会長(80)は「2年間披露できずにいたので、今年は開催する方向で、昨年末から演目や配役を決めていた。秩父地域で伝統行事の中止が今年も相次いでいることを知り、保存会メンバーと話し合った結果、われわれも中止を選択した」と説明する。
江戸時代から伝わる同人形芝居は1977年に県の無形民俗文化財に指定。今年3月には、舞台の場面が転換する全国でもまれな「回り舞台」が高く評価され、「横瀬の人形芝居舞台」としても、県の有形民俗文化財に指定された。メンバー一同は有形文化財認定後の初舞台として、今回の開催を待ち望んでいた。
保存会は現在、町内の20~80代26人で構成。メンバーには、医療・福祉従事者や教職員もいる。若林会長は「万が一、練習や本番で感染者が出てしまったら、町に大きな被害が出る。開催を願う人も多いが、町内の感染者が完全に下がるまではやはり再開させるわけにはいかない」と語る。
今後、秩父地域の感染者数低下が続けば、横瀬の人形芝居、白久の串人形芝居(秩父市)、出牛人形浄瑠璃(皆野町)が一堂に会する「秩父人形サミット2022」が11月に開かれる。若林会長は「サミットを実現させるため、今は我慢の時」と心に誓った。