埼玉新聞

 

ハムの名店、担当者の他界などで閉店…技術磨いた男性、後継店を開業「旧店舗の人気に追い付きたい」

  • 「カズサヤ」の店舗跡に「オクダハム」を開業した奥田聡さん。前身店時代から使用する必要な機械などを受け継ぎ、質の高い商品の製造に努めている=さいたま市見沼区

  • 国際的なコンテストで金賞受賞歴がある老舗ソーセージ・ハム工房「カズサヤ」の店舗跡に開店した「オクダハム」=さいたま市見沼区

 東武線大和田駅から徒歩5分の場所に昨年12月、本場ドイツ製法のソーセージなどを製造、販売する「okuda.hamu(オクダハム)」(さいたま市見沼区)が開業した。同地では、かつてドイツ製法ハム・ソーセージ工房「kazusaya(カズサヤ)」が営業していた。ハム・ソーセージの世界的大会「IFFA」で複数の金メダルを獲得した家族経営の名店だったが、製造担当者らの他界などから昨年5月に閉店。後継に適任の人材を探していたところ、ドイツ製法の技術を持つ男性が見つかり、実質的に事業承継された。

 男性は30代から製造に携わる奥田聡さん(50)。店舗は2階建てで、1階に工房と売り場がある。奥田さんはハム、ソーセージの製造、販売の店舗の運営者に必要な食品衛生管理者の資格を保有するが、製造には少量でも食品添加物を使うため店舗建築には保健所の許可が必要だ。店舗建物は既に許可済みのため、円滑に開店できた。

 製造に必要なサイレントカッター、スモークハウス、充填(じゅうてん)機、チョッパーなどの機械は買い取り使用。新品では3千万円以上かかるが、「定期的な補修などが施された良い状態の物を引き継げた。出費も抑えられた」と話す。販売用のショーケースもそのまま使っている。ウインナー、ハムなど常時30種以上並ぶ。価格はソーセージが100グラムあたり500円程度。

■客単価は約4千円

 使う主な豚肉の銘柄は千葉県の林SPFを用いる。旧店舗時代から使用し、従来客にも受け入れられているからだ。独自色を出すため、岩手県産の岩中豚も使用。新鮮なヒレの部位の精肉も販売する。

 商品は豚肉の強みを引き出すことを重視。培った技術を生かし、こだわるドイツ産のスパイスなどを適度に用い、オリジナルの味に仕上げる。

 客層は旧店時代からと新規の半々。1日最大40組来店し、客単価は約4千円。商品の質の高さだけでなく、新鮮な精肉を提供することも評価し、固定客が少しずつ増えている。利用する近隣在住の女性は「パンに付けて食べるレバーヴルストは滑らかで美味。生ヒレ肉も高品質」と話す。

■基礎から学ぶ

 奥田さんは30歳のころ、肉好きが高じて、紹介を受けた都内の肉類卸売業に入社。生肉の目利き力を養った。

 その後、製造に関心を持ち、神奈川県内の家族経営の加工・販売店に転職。ドイツ製法を基礎から学んだ。その時、国内屈指の豚肉を用い、質の高い香辛料などを使ったソーセージなどを相応の価格で販売し、全国に固定客を持つオーナーの技量に感銘を受け「いつか自分の店を持ちたい」と決意。日々、技術習得に努め、併せて資格も取得した。

 3年ほど勤めた後、山梨県内のソーセージ工房で3年勤め技術を磨いた。山梨時代から全国食肉事業協同組合連合会が主催のソーセージ生産の講習会にも定期的に参加。今回の店舗開業を仲介した男性が講師の研修にも、カズサヤの製造担当者らと受講していた。

 個人的な事情で同工房を離れ、別の仕事に従事したが、夢を諦めず研修会には参加を続けたり、知人の経営先などの手伝いをしていた。数年前、都内で出店を検討したが、家賃など金銭面が折り合わず断念。次の機会をうかがっていたという。

■技術レベルに納得

 カズサヤを運営していた家族は閉店後も、技術のある人材に店舗を引き継ぎたいと考えていた。ただ希望者が現れても技術レベルに納得できず、仲介役の男性に相談を続けてきた。

 男性は適任として奥田さんを思い出し「まだ店を持ちたい希望はあるか。ふさわしい話がある」と打診した。奥田さんは話を受けた当初は「カズサヤさんの製品を高評価していたので、ちゅうちょした」。ただ好機とも感じ、出店を強く意識。男性も「私の講習も受けており、技術が高い」と旧カズサヤ側に推薦。奥田さんは出店へ、試験に臨んだ。

 これまで蓄積した技術を生かし特製ソーセージをなど作成。試食した旧カズサヤ側も「任せても大丈夫」と太鼓判を押し、後継店に決まった。旧カズサヤ側も「奥田さんのような真面目な人に、地域に根差した店舗を委ねられることに感謝したい」と話す。

■法人営業にも注力

 開店して数カ月だが、各種努力は怠らない。経営の安定へ法人営業にも注力。山梨時代の人脈も活用し、新型コロナウイルス感染拡大で需要が高まるキャンプ場への営業が奏功、4月から第1弾の出荷が始まった。機会があれば「彩の国黒豚」など県産品の活用にも取り組む考えを示す。

 奥田さんは自身の技術を高め、少しでも旧店舗の人気に追い付きたいと話す。その上で「腕を上げるために多くの畜産現場を巡り、その肉を味わいながら、自身の創造性を高め商品に生かすことが何より大切だと思う」と述べた。

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