埼玉新聞

 

人気モデル・嵐莉菜さん、映画初挑戦 主人公の「自分にない感情」に苦労、繊細な演技で描写 6日公開

  • インタビューを受ける嵐莉菜さん=2日、東京都渋谷区

  • 作品について語る川和田恵真監督(右)と監修のワッカス・チョーラクさん=4月26日、東京都北区

 勉強を頑張り、アルバイトをして、恋をする―。そんな高校生の日常が「難民申請不認定」の一言で足元から揺らいでいく。埼玉で暮らし、制度の壁に振り回されながらも居場所を探すクルド人少女を描く映画「マイスモールランド」が6日公開される。「『めでたしめでたし』ではなく、ピリオドのない物語」と語る川和田恵真監督(30)は「もやもやした気持ちを忘れず、自分の心の中の境界線や日本の制度への疑問にたどり着いてほしい」と希望を寄せる。

 作品では、幼い頃から日本で暮らし日本語とトルコ語を話す17歳のサーリャ(嵐莉菜)がクルド人コミュニティーの手助けをしたり、アルバイト先の同僚と心を通わせたりする中、出入国管理局から難民申請の不認定を告げられる。アルバイトや移動が制限され、将来にも暗い影が落ちる様子が埼玉の美しい情景と共に静かに描き出される。2月のベルリン国際映画祭にも出品された。

■今起きていること作品に

 自らも父が英国人の「ミックスルーツ」を持ち、居場所をテーマとする川和田監督は、イスラム国(IS)と戦うクルド人女性の写真に衝撃を受け、日本でもクルド人が難民認定を求めて「静かな戦いの中にいる」と知った。在日クルド人の体験を取材し、「誰か一人の人に負担を負わせたくない」と表現に苦悩しながらも「今起きていること」を描き出す作品を作り上げた。

 「いないとされている当事者に光を当てて現状を伝えたい」とメインキャストにもクルド人の起用を望んだが、「もし強制送還されたら、メッセージ性を持つ映画に出演したことがどう影響するか分からない」と断念。「正しいと思っていたことが危険を招くかもしれないという暴力性に気付いた」と不安も抱いたが、オーディションで「自分は日本人だと言いたいけど周りはそう思ってくれない」と打ち明けた嵐さん(18)と出会い、「サーリャにはまる」と確信した。

■主人公と同じ葛藤

 嵐さんは県内出身の人気モデルで、映画は初挑戦。独やイランなど5カ国にルーツを持ち、サーリャと同様にアイデンティティーの葛藤を抱え「自分のルーツがコンプレックスだった」という。サーリャのことは「自分の希望を諦めてでも、大変な状況を自分の力で何とかしようとする人」と表現。共通点も多く、アルバイト先で「どこの国から来たの?日本語が上手」と言われるシーンは「あるある」と苦笑する。サーリャが抱く相反する心情には「自分にない感情」と苦労しつつ寄り添い、繊細な演技で描写した。

 日本に住むクルド人を実際に訪ねて交流もした。「不自由な思いをしていても、明るくて楽しそう」と話し、「身近にいたのにクルドのことを知らなかった。まだまだ知らない埼玉がたくさんある」と故郷への見方が少し変わった。「将来は悪役やアニメの実写を演じてみたい」といたずらっぽい表情も見せるが、今作については真剣なまなざしで「年齢性別関係なく共感できる自分にとってかけがえのない作品。クルドを知らなかった人にとってのきっかけや入り口になれたら」と熱く語った。

■ウクライナだけでなく

 映画では、サブキャストに在留ビザを持つクルド人を起用。料理や生活用品もクルド人の協力を得て用意し、川和田監督は「画面上にいなくても一緒に作った映画」と語る。クルド文化などを監修した日本クルド文化協会事務局長のワッカス・チョーラクさん(40)も「普段外に見せない生活まで描かれ、非常にリアル」と太鼓判を押す。特に入管での面会シーンは「自分の兄弟が収容された時を思い出してつらくなった」ほど。「埼玉にこういう民族がいることを知り、多様性の時代に共に生きていけるよう、解決に向けて助けてほしい」という。

 川和田監督も「今進むウクライナ避難民の受け入れも必要なことだと思うが、すぐ近くに難民申請が通らず苦しんでいる人がいると知ってほしい」と訴える。夫が入国管理局に収容された女性の「難民申請は不治の病にかかっているよう」という言葉が川和田監督の心に刺さっている。「今後、新しい入管法が成立したら状況が悪化するかもしれない。各政党の案を注視し、ボランティア活動などできることに参加してほしい」と語った。

 7日にはMOVIX川口で上映後に舞台あいさつが行われる。チケット販売中。

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