超急速冷凍で!海なし県埼玉に漁港があるのと同じに 埼玉・川越の製本業者の冷凍庫に高い評価 特許も取得
経営多角化に取り組む川越市中台の製本業「豊翔」(仁居弘一社長)は、食材の品質を落とさない超急速冷凍システム「フードタイムマシン」を開発。昨年3月に特許を取得し、今年2月には、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、県が革新的で将来性ある技術や製品開発を進める企業に贈る「彩の国SDGs技術賞」の奨励賞を受賞した。高い評価を得て、3月に本格販売を開始。新システムを搭載した冷凍庫はこれまで、北海道から沖縄県まで全国に80台超を販売、売り上げを伸ばしている。
48歳の仁居社長は2013年に、父親が創業した同社を引き継いだ。社会のデジタル化が加速する時代に社長となり、「製本や印刷だけでは食べていけなくなる」と事業再構築を模索。食への関心が高かったことから、17年に市内で飲食店を開いた。
課題は食材の劣化と食品ロス。マイナス15~20度で凍らせる従来の冷凍技術では水分から凍結が始まるため、氷結による膨張で食品の細胞組織が破壊されてしまう。また、脂肪は水分よりも緩やかに凍るので脂肪と水分が分離。解凍したときに食味が落ち、長期保存も限界があった。
急速冷凍技術はこうした問題を解決するために普及が進むが、マイナス35度、30分程度で凍らせるのが一般的だという。だが、より劣化を防ぐには速やかに完全凍結させることが重要となる。仁居社長は17年から、知人の研究者と共同で大幅に低い温度で凍らせる技術の開発を試行錯誤。マイナス60度でも凍結しない専用のエタノール製剤液に真空パックした食材を漬け、電磁波の振動を加えることで、10分以内に凍らせる超急速冷凍の実用化に成功した。
マイナス60度で凍結、保存すると、冷凍時の質低下をさらに防ぐばかりか、化学反応が起こらないため、長期保存に伴う劣化もほとんどないという。同社が展開する市内の2カ所の飲食店では、テスト販売時から導入。食材の廃棄がほとんどなくなった。仁居社長は「フードロスを防げるだけではなく、作り置きができるので人件費抑制にもつながる。通信販売やテイクアウトもしやすくなり、コロナ下での外食産業の生き残りにも役立つ」と期待する。
同社は現在、マイナス80度の冷凍技術開発にも取り組む。仁居社長は「さらに最速のものを作り、わが社の技術で超急速冷凍の分野を確立したい。海外への売り込みも準備している」と決意を示す。
新システムを活用した地域貢献も構想にある。全国の漁港で水揚げされたばかりの魚などを現地で超急速冷凍し、県内に運ぶ体制を構築すれば、「海なし県埼玉に漁港があるのと同じ。おいしい海産物を堪能していただける」と仁居社長。子ども食堂での利用も目指しており、「学校では勉強できないことを学ぶ場と食堂を組み合わせれば、食を通じた地域コミュニティーが築ける」と夢を語った。