埼玉新聞

 

2020年に2万人が死亡…早期発見で高まる生存率 患者に寄り添い、予防など正しい知識を 川越でがん啓発イベント がんサバイバーや医療を学ぶ学生ら交流「多くの人に検診を受けてほしい」

  • 空席のテーブルを囲みがんの死者を悼む参加者ら

    空席のテーブルを囲みがんの死者を悼む参加者ら=2024年9月28日、川越市

  • 空席のテーブルを囲みがんの死者を悼む参加者ら

 地域でがん患者に寄り添い、予防などへの正しい知識を身に付ける取り組みが続いている。昨年県が発表した統計によると、2020年には約2万人ががんで死亡しているが、検診で早期発見ができれば生存率は高まるとされている。埼玉県の川越市では昨年、がんの啓発イベント「リレー・フォー・ライフ」が開かれ、がんサバイバーと呼ばれる元患者や、医療を学ぶ学生らが交流を深めた。

 リレー・フォー・ライフは1985年、米国の医師が24時間がんと向き合う患者への寄り添いを示すため、24時間走り続けて寄付を呼びかけたことで始まった。日本では2006年以降、「がん征圧月間」とされる9月に各地で開催され、川越市では16回目の開催となった。会場の蓮馨寺は、不安を乗り越えた夜明けをイメージした紫の飾り付けで彩られ、患者や支援者らのメッセージが書かれた灯籠で照らされた。

 日本医療科学大学(毛呂山町)のブースでは乳がんの自己検診方法などを紹介。臨床検査学科2年の片野千優さん(20)と診療放射線学科2年の稲葉愛音さん(20)は「血圧や血中酸素など、普段学んでいることを質問され、分かりやすい説明を心がけた」「がんサバイバーに会い、想像以上の元気で、(医療を学ぶ)モチベーションになった」と普段の学びを発揮した。

 乳がんを患った坂戸市の飯田友美子さんは「リレー・フォー・ライフでは、参加者が着けるリボンの色で相手のがんが分かる。がん患者ということを黙っていなくていいというメッセージになる」と会場を見渡す。11年に治療法の選択肢が少ない「トリプルネガティブ」の乳がんと診断され、「二度と経験したくない」というつらい治療を乗り越え、完治に近い状態となった。

 治療中、「がん子ちゃん、ごめんね。今は必要ないから消えてね」と言い聞かせたと振り返った飯田さんは「今では検診の時のドキドキした気持ちは楽になった」と笑顔を見せる。ただ、先立った仲間を思い「まだがんは制圧され、普通の病気にはなっていない。多くの人に検診を受けてほしい」と力を込めた。

 日が落ち、辺りが暗くなると、空席のテーブルを参加者が囲んだ。テーブルの上には、苦しい治療を意味するレモンや、涙を象徴する塩、追悼の気持ちで伏せられたグラスがある。今年、リレー・フォー・ライフに参加することができなかった仲間をしのぶセレモニー「エンプティー・テーブル」だ。昨年4月にがんで死去した歯科医師に向けた家族の手紙が読み上げられ、参加者らは「『必ず治る』と屈しない姿勢で、激痛の中、仕事を続けた。家族の心に生き続けている」とする妻の言葉に耳を傾けていた。

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