テニス・全豪ジュニア女子で日本人初V 浦和出身、園部八奏選手 武器は時速180キロに迫るサーブと強烈なフォアハンド 錦織圭と同じIMGアカデミーで腕を磨く17歳 快挙達成や成長の要因は
1月に開催されたテニスの全豪オープン・ジュニア女子シングルスで、園部八奏(わかな)選手=さいたま市浦和区出身、与野テニスクラブ(TC)=が日本勢として同種目初制覇を果たした。身長174センチのサウスポーで、時速180キロに迫るサーブと強烈なフォアハンドを武器に攻めのテニスを貫く17歳だ。「今年の目標はプロのトーナメントで優勝すること。これからもプレースタイルを変えずに、どこまで通用するのか挑戦したい」。日本テニスの歴史を動かした原石は、自らにさらなる磨きをかけ、輝きを増そうとしている。
14歳から盛田正明テニス・ファンドの支援を受け、男子の錦織圭(ユニクロ)と同じ米フロリダ州のIMGアカデミーで腕を磨く園部選手。帰国したタイミングで、快挙達成や成長の要因、今後の抱負を自身のテニスの原点となった与野TCで聞かせてくれた。
■56年ぶり快挙
第4シードで挑んだ全豪は1回戦を乗り切ると、2回戦からの4試合は1セットも落とさず決勝進出。両親と兄が見守る中、決勝も持ち前の強打を見せつけ6―0、6―1と圧倒した。昨年の全米オープン・ジュニアの準優勝に続く決勝の舞台に「緊張はなくて、いつも通りのプレーができた。相手に攻められる隙を与えなかった」とうなずく。
四大大会ジュニアの女子シングルスで日本選手が制覇するのは1969年ウィンブルドン選手権の沢松和子さん以来、実に56年ぶり。「表彰式で音楽が鳴った時に『勝ったんだ』と実感して、めちゃくちゃうれしかった」と笑う。
「どんなに競っている場面でも、しっかり打てるのが自分の良さ」。その長所は消さず、IMGアカデミーの弘岡竜治コーチ(浦和学院高出)の下、フィジカル面を強化したことが躍進の要因だ。「前の動画を見ると、めちゃくちゃ動きが遅い」と実感。サーブ力の向上やポイントの取り方を考えながらプレーできるようになったことも大きい。
全豪後のアブダビ・オープンではWTAツアーで初の本選入り。世界ランク837位(当時)ながら1回戦で同55位(当時)の中国人選手を撃破。2回戦では元世界ランク2位のチュニジア人選手に敗れたが、各セットとも随所に好プレーを披露し、「ラリーや打ち合いではポイントを取れていた」と力を込める。大会後、世界ランクは464位に急上昇した。
■「楽しむ」原点
兄の影響で4歳でテニスを始め、小学1年の時に与野TCのジュニアクラスに入った園部選手。「ずっと楽しかった。プレッシャーも感じず、ただ好きなようにテニスをしていたので自分のテニスを伸ばせた」と笑顔で振り返る。
帰国した際は必ず与野TCに顔を出す。今回は快挙達成後とあって、スクール生から花束のプレゼントも。「思った以上に喜んでくれてうれしい。クラブには小さい頃からお世話になっているので活躍して恩返ししたい」と誓う。
名前の由来は漢数字の「八」が末広がりで縁起が良いことから「いろいろな良い影響を世の中に奏でてほしい」という両親の願いが込められているという。その名の通り、園部選手の周りには自然と人が集まってくる。両親は「勝つことも大事だけど、みんなから愛される選手になってほしい」と優しく視線を送った。
大勢の人に背中を押される希望の星。シニアの四大大会制覇を期待したくなるが5、10年後など先の目標は考えないという。「すごいことをした感覚はあまりない。今年はもっとプロの大会に出て、プロでランキングを上げること。目の前の試合を一つずつ戦っていく」。飽くなき向上心こそ、強さや飛躍を支えている。
■「応援される選手に」/与野TC大西コーチ
与野TCを運営する「エーティーエス」の社長で、クラブでコーチを務める大西亮さん(51)は教え子の偉業をライブ映像で観戦。「すごいことをやり遂げた。うれしいという思いしかなく、泣きそうだった」と喜んだ。
園部選手の負けず嫌いで大胆なところを見て「強くなる」と確信していたという。重圧のかかる場面でも攻め続けられるハートの強さが最大の武器と評し「このまま変わらず、みんなに応援される選手になってほしい」と思いを込めた。