埼玉新聞

 

妻妊娠「40万持ってこい」から始まった ごみ袋から恐怖、感動も…芸人・ごみ清掃員の滝沢秀一さん

  • 「ごみの分別を始めてから、人付き合いも丁寧になった」と話す滝沢さん(相澤利一撮影)

  • 漫才コンビ・マシンガンズとして舞台に立つ滝沢さん(左)。右は相方の西堀亮さん(提供=太田プロダクション)

 ごみの収集業務は週4日、仕事の日は毎朝5時に起きて6時半に出社する。お笑い芸人と民間のごみ清掃会社の作業員という二足のわらじをはく滝沢秀一さん。2年前から環境省のサステナビリティ広報大使も務め、ごみの減量化や正しい分別方法などを啓発している。偶然にもきょう5月30日(ごみゼロの日)は妻友紀さんとの結婚記念日。まさにごみ清掃の申し子ともいえる滝沢さんに現場作業員だから感じるエピソードを聞いた。

■ネタ番組が終了。極貧時に妻が妊娠

―ごみ清掃の仕事を始めたきっかけは。

 いまから約10年前、36歳のころに妻が妊娠したんですが、ちょうど「エンタの神様」とか「爆笑レッドカーペット」とかネタ番組が終わって超極貧。妻に「40万持ってこい」って言われて、アルバイトでもしようと思ったのがきっかけです。当時、9社くらい面接を受けたんですが全部落ちちゃって。これじゃ芸人を辞めなきゃなって悩んでいたときに芸人仲間からたまたまこの仕事を紹介されました。ごみ清掃や環境問題に興味があったわけじゃなく、当時はお金のためだけでした(笑)。

■コロナ禍で染みる感謝の言葉

―コロナ禍でごみの量は変化したか。

 いまはコロナ前の状態に少し戻ってきましたが、緊急事態宣言中など外出制限だったころは体感で従来の1・5~2倍くらい。弁当の容器やペットボトルなどのプラスチック製品が本当に多かった。生ごみも多くて、皆さん、家で料理する機会が増えたんだなって肌で実感しました。

 ごみ収集って、パッカー車(ごみ収集車)に1回積め込んだらそれで終わりってイメージないですか。僕の場合、実は同じ作業を1日に6回もやっていて。1台に最大2トンくらい積めるので6回で計10~12トン。外出自粛中は7回に増えましたね。

 コロナ以降、マンションの管理人さんとかにありがとう、ご苦労さんて何気ない一言をかけてもらうことが増えて本当にうれしい。ときには、ごみ袋にペンで「ありがとうございます」と書いてあったり。コロナ禍で生きづらい世の中だからこそ、ささやかな「日常」のありがたみを感じています。

■包丁が靴の上にトーン。さすがにビビった

―ごみの収集作業でこれまで危ないと思ったことは。

 ごみ袋を持ち上げたら包丁が飛び出してきたときはビビりました。持ち手の方が靴の甲に落ちてきたから大丈夫だったんですけど、逆向きだったらと思うとゾッとします。刃にガムテープをぐるっと巻いてくれるだけで全然違うんですけどね。

 ほとんどの人がごみを捨てたらそれでおしまい。目の前から消えてしまえばそれでいいって思っているのかなあ。誰かが回収してくれているんだって、少しだけ想像をめぐらせてほしいです。

 以前、竹串をティッシュの空き箱にまとめて入れてくれた方がいたんですけど、私たち回収する人間のことをきちんと考えてくれている“家事のプロ”だなって感動しました。

■高級住宅地はごみがほとんどない?

―地域によってごみの量は違うか。

 ごみの収集をしていると、地域によって(ごみの)中身や量が全然違うことに気づきます。普通の住宅地では物がバンバン捨てられていますが、都内の高級住宅地ではごみが圧倒的に少ない。変な話、洋服とか100均グッズなどはほとんど出てきません。

 お金持ちってバンバン買ってバンバン捨てるイメージだったんですけど、出てくるものは美容液の空き瓶とか健康グッズばかり。自分に投資したり、本当に認めたものしか買わないからごみが少ないんでしょうね。それでお金も貯まって。悔しいから自分もごみを減らしてお金持ちの生活をまねしています。

■遊び感覚でごみの減量化を

―家庭ですぐにできるごみの減量化は。

 わが家では「資源」となる雑紙(カレンダーやお菓子の箱など)や学校のプリントですぐにいっぱいになります。可燃物に入れてしまえば灰になるだけですが、使えるものを取り出せば家庭から出るごみも減る。収集する僕たちも楽になるんです。

 家族の間ではいかにごみを減らせるか、ゲーム感覚でやっています。自分が楽しんでいると子どもたちも一緒に楽しんでやってくれますから、「これって何ごみ?」ってクイズを出しながらやっていくと子どもたちの勉強にもなって一石二鳥です。

■ごみの分別で、心も穏やかに?

―生活に良い変化はあるか。

 専門家の話では、1年間でひと家族平均で約6万円分の食品ロスを出しているそうです。

 例えば食料品を買うとき、ネットで調べて1円でも安く買おうとするじゃないですか。買うときは値段のことを気にするのに、捨てるときは半分くらい余らせても平気で捨てたりする。

 雑に暮らしていると何でも面倒くさくなって心がすさんだりしますが、ごみの減量化や分別をきちんと心掛けると生き方が丁寧になって心が穏やかになる。それって、ある程度気持ちに余裕がないとできませんから。おかげで人付き合いも丁寧になって、昔を知る仲間からは「まるで別人だな」ってよくツッコまれます(笑)。

■捨てる前にギュっとひと絞り

―滝沢家では具体的にどんな工夫をしているか。

 ごみの減量化ですぐにできることは、まず、可燃ごみの中から資源となる紙を取り出すこと、次にペットボトルなどのプラスチックを取り出す。1週間だけでもプラスチックの量ってすごいですよね。身の回りのほとんどがプラスチックに囲まれているんじゃないかって思うくらい。わが家では1週間で70リットルの袋がギュウギュウになります。

 そして最後にぶつかるのが生ごみの問題。わが家ではコンポスト(たい肥処理)として黒土の中に入れていますが、実はこの3つをやればほとんどごみは出ないんです。

 生ごみの嫌な臭いの原因はほとんどが水。捨てる前にギュっとひと絞りするだけで臭いが軽減されて、カサがだいぶ減ります。それによって最終的にごみ収集車の稼働回数も減り、二酸化炭素の排出量も減りますから、良いこと尽くめなんです。

■愛するものなら命なくなるまで使う

―環境省のサステナビリティ広報大使としてメッセージを。

 アメリカの言葉で「ラストロング」という言葉があります。直訳すると「長持ちする」って意味なんですけど、「愛するものなら命なくなるまで使う」という精神。日本語だと「もったいない」に近いんですが、それって捨てようとしているときに使う言葉じゃないですか。この「ラストロング」という言葉は全く逆で、買う前に「この物を本当に愛せるか」を最初に考えようというものです。

 物を買うときに捨てることを考えてほしい。あとでどうやって捨てるんだろうって。その上で本当にほしいのかどうか。お金があるから何でも買って捨てればいいってわけじゃないですからね。

■プロフィル

滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)

1976年生まれ。太田プロダクション所属。お笑いコンビ・マシンガンズとして活動するかたわら、定収入を得るためにごみ清掃会社に就職。ごみ清掃員として日常から見えてくる格差社会やごみ問題、清掃業界の優れた人材など清掃員の日常をつづったツイートが人気を集める。ベストセラーの『ゴミ清掃員の日常』『同 ミライ編』(講談社刊)など著書多数。結婚記念日は「5月30日(ごみゼロの日)」

ツイート シェア シェア