望海風斗、初挑戦の「歌わない」舞台で深めた歌への思い 舞台「マスタークラス」主演 ※インタビュー動画連動記事
元宝塚歌劇団雪組トップスターで俳優の望海風斗が、3、4月に東京などで上演される舞台「マスタークラス」で主演を務める。演じるのは、20世紀最高峰のソプラノ歌手と言われたマリア・カラス。望海にとっては初めてのストレートプレイへの挑戦となる。「今までの自分とは違う、大きな一歩」と意気込む望海に、見どころを聞いた。(※末尾にインタビュー動画のURLがあります)
【のぞみ・ふうと】横浜市出身。元宝塚歌劇団雪組トップスター。2021年に退団後もミュージカルを中心に活躍する。近年の主な出演作に「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」「イザボー」など。
【目次】
(1)音楽を崇拝し、努力した人生
(2)経験から生まれた言葉の重み
(3)「けんかもした」宝塚同期との絆
(4)これから「マスター」したいのは…
(1)音楽を崇拝し、努力した人生
記者 舞台「マスタークラス」はどんな作品ですか。
望海 20世紀最高峰のソプラノ歌手と言われたマリア・カラスが、40代後半で声が出なくなってきて引退して、米国のジュリアード音楽院で声楽の受講生たちに公開授業をした実話を基にしたお芝居です。若い歌手たちに歌を教えるんですけど、そこから歌だけじゃなくて人生のこと、普通は教えないような哲学的なことを語りながら、だんだん自分の中に入っていって、これまでの人生を語り出す。その話が、実際にカラスが演じたオペラの物語にうまくつながっているんです。
記者 この作品に入るまで、オペラを鑑賞した経験はありましたか?
望海 お芝居の勉強として一度、映像で見ただけでした。この作品が決まってから初めてオペラの勉強をして、実際に見に行ったりもするようになりました。
記者 マリア・カラスの生き方に触れてみて、どんな印象を受けましたか?
望海 成功した華やかな姿の一方で、影の部分もすごくある人生だったんだなと感じました。カラスの人生そのものがオペラになるんじゃないかっていうくらい、いろんなことを乗り越えて高みにたどり着いて、それでもまた苦しんで。外から見たら、果たして幸せな人生だったかどうかは分からない。それでも現状に屈しない精神と、芸術に深く入り込んで音楽を崇拝し、努力して、トップに君臨する力みたいなものには憧れるところがあります。
記者 今回がストレートプレイ初挑戦です。ミュージカルとの違いを感じている部分はありますか?
望海 演出の森新太郎さんからは、とにかく「言葉一つ一つにいろんなイメージを持たせてください」と言われています。ミュージカルの場合、音楽によって感情やドラマが生まれていくところがあるんですが、今回は歌がない分、自分から生まれてこないといけない。そこはすごく難しいところだと思います。
(2)経験から生まれた言葉の重み
記者 初めてオペラを鑑賞してみて、どんなところに魅力を感じましたか?
望海 オペラって「歌で聴かせるもの」というイメージが強かったんですが、実際に見に行ってみたら想像以上に演劇的でした。特に最近は演劇的な演出が好まれているそうで、ミュージカルのように歌の中でも物語が展開していくんですけど、そういうことを最初にやったのがマリア・カラスなんです。ただ良い声を聴かせるだけじゃなくて、役の心情を含め「作曲家が描いた世界をどれだけリアルに表現できるか」を追求していた。だからこそ熱狂的なファンもいたけどアンチも多かった。「きれいな歌」を聴きに来た人にとっては、感情があふれて圧が強かったり、音程がずれたりするのは許せない。だから批判もたくさんあったけど、それでもカラスは「役になりきって、その人として歌う」戦いを貫いたので、すごい人だなと改めて感じました。
記者 実際にオペラのレッスンも受けられたそうですね。
望海 私はもともと宝塚で男役をやっていたので、退団後に女性の声に戻すのにかなり苦労してきました。ボイストレーニングを続けながら自分本来の声を探す中で、基礎になるクラシックオペラの発声をもう一度教えてもらったのは大きいです。大事なのは男役の声か女役の声かということではなく「自分の骨に共鳴させて息を流す」「体を鳴らす」ってことなんだなと再確認しました。
記者 役作りで心がけていることはありますか。
望海 (マリア・カラスは)いろいろなことを経験してきたので、言葉にすごく重みがあります。その説得力が自分の中から出てくるかどうか…。私がカラスになれるかどうかというより、カラスの人生から生まれた言葉たちが、舞台の上でちゃんと生きた言葉になるというのが一番の目標かなと思っています。
(3)「けんかもした」宝塚同期との絆
記者 ご自身も宝塚で競い合ってトップに立った経験をお持ちです。その経験が、役作りに生きている部分はありますか?
望海 あると思うんですけど…私、結構忘れちゃってるんですよ。すごく濃い時間だったので、卒業したときに一つ「やりきった」って箱の中にしまっちゃったような感覚がある。ちゃんと掘り起こさないといけないですね。
記者 その中でも忘れずに残っていること、今お仕事をする上で意識していることはありますか?
望海 学校で最初に教わったのは「みんなでそろえる」こと。当時はすごく不思議でした。隣なら分かるけど、なんで一番端の人まで意識してそろえなきゃいけないんだろうって。でも、一つの場面を作るには自分一人がちゃんとやっているだけじゃうまくいかなくて、みんなで作っているという意識が大事なんだということを、同期と一緒に生活していく中で学びました。当時はけんかもしましたし、大変でしたけど、みんなで戦った絆は強いです。
記者 今も悩みを相談し合ったり?
望海 ありますね。それぞれの人生があるので、なかなか会えない子もいるんですけど、誕生日は絶対にLINEでお祝いしあったり、誰かがテレビに出てると「今、出てるよ」って連絡があったり。若い時はライバルでしたけど、今はみんなが仕事とか子育てとか、それぞれの分野で頑張っているのが励みになります。
記者 これから歌を勉強する若い人にアドバイスを送るとすれば?
望海 自分の楽器を知ることじゃないかと思います。骨格や舌の形が人によって違うので、鳴らす場所も違っていて、同じやり方で同じ声は出ない。自分の体がどうなっていて、どこを意識すれば鳴らせるのかというところは、なかなか他人が教えられなくて、自分で試行錯誤しながら探っていくしかない。長い道のりではあるんですけど、実はそれが一番の近道だと思います。
(4)これから「マスター」したいのは…
記者 タイトルの「マスタークラス」にちなんで、望海さんがこれから「マスター」してみたいことはありますか?
望海 バイオリンは一回やってみたいです。高いから趣味で買う勇気はなかなか出ないんですけど、ピッチ(音高)を取るのに良さそうなんですよね。あとは管楽器も息を流すのにいいらしいので、楽器をやってみたいです。その道を究めたいというより、仕組みを経験して知りたい。ミュージカルではオーケストラと一緒にやることも多いので、いろんな楽器の仕組みを知ると、自分の「楽器」の仕組みも分かるし、一緒に歌うときにもっと楽しくなるだろうなと思って。
記者 やっぱりお仕事につながるんですね。
望海 好きなことをやっているので、趣味とかを聞かれても最後はそこにたどり着きますね。
記者 マリア・カラスにも負けない、音楽への熱い思いが伝わってきました。最後に意気込みをお願いします。
望海 カラスの言葉を追いかけることで、私自身がすごく高めてもらっている感覚があります。オペラを好きな方はもちろん、音楽とは関係のない仕事をされてる方、学生の皆さんにも響くような言葉がいっぱいちりばめられているので、お芝居になじみのない方も、人生の先輩に講義を受ける感覚で来てもらえたらうれしいです。
(取材=共同通信 高田麻美 撮影=伊東祐太)
★YouTube「うるおうリコメンド」にて望海風斗さんのインタビュー動画をご覧になれます。動画URLは下記です。
https://youtu.be/qnmlLI4PATQ
★舞台「マスタークラス」公演日程
▽3月14日~23日 東京・世田谷パブリックシアター
▽3月29日~30日 長野・まつもと市民芸術館
▽4月5日~6日 愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT
▽4月12日~20日 大阪・サンケイホールブリーゼ