埼玉新聞

 

道路陥没1カ月 長期化が見込まれる復旧、周辺住民や企業に広がる不安 音や揺れ、夜間は和らぐも…住民を悩ませる強い悪臭 トラック運転手を思う一方「いつまで続くのか」「気が遠くなる」

  • 避難指示が出て八潮市役所へ避難する人たち

    避難指示が出て八潮市役所へ避難する人たち=1月29日午前3時40分ごろ、八潮市役所

  • 避難指示が出て八潮市役所へ避難する人たち
  • 陥没事故の現場近くではマンホールから下水をくみ取る作業が行われていた=3日午後3時ごろ、八潮市二丁目

 八潮市で県道が陥没し、トラックが転落した事故は、2月28日で発生から1カ月がたった。トラック運転手の救助が急がれる一方、復旧には長期化が見込まれ、周辺の住民や企業に不安が広がっている。

 近くで飲食店を営む50代男性は「やっと落ち着いてきた。でも運転手さんが救出されるまではまだまだ。いろいろ自粛している人も多い」と話した。事故現場近くに住む40代女性は「夜間は音や揺れが和らいだみたい」と答えた。県が同月21日に市内で開いた住民説明会では、事故現場周辺の住民から工事による騒音や振動、異臭に悩まされているとの声が相次いだ。

 県はこうした声に配慮。「作業は夜間も続いているが、午後10時以降、大きな音が出る仕事は、なるべく控えるようにしている」とした。一方、いまだ異臭は強く住民を悩ませている。また地域住民にとって欲しい情報が入らず、日々の不安は増すばかりだ。

 市は同月26日の会見で、事故現場で雨水管が損壊しており、今後大雨が降った場合、内水氾濫が起きる可能性を明らかにした。現場近くに住む70代夫婦は「説明会では県も市もちゃんとやりますとは言ったが、説明会の後は住民には何の対応もない」と答えた。

 事故の影響、復旧の長期化は地元経済にも影を落とす。八潮市商工会によると、事故現場近くで、既に休業を余儀なくされている企業、店舗が複数あるという。

 同商工会は会員を対象に緊急アンケートを実施。「(会員は)金融や補償を気にしている。まだ1カ月だから様子見だが、長期化するとどうなるか」と地元企業の実情を言葉にした。

 市は同月27日に開会した議会で、新年度当初予算案を提案した。陥没事故に関する予算は当初予算には組み込まず、補正で対応する。市議会は同日、事故に関連し「救助を最優先とした、応急復旧、住民・事業者への対応等」に関する決議を可決。関連の一般質問を控える対応を確認した。

■悪臭、振動「いつまで」

 「(汚水の)くみ取りポンプ車が家の前にいるみたい」。避難先から約3週間ぶりに自宅に戻った会社員女性(51)は、深夜に室外機から入り込む悪臭で目を覚ました。県は説明会で「安全な数値」と説明したが、「鼻や体の中に臭いがたまる。近所の人も『臭いで喉が痛い』と話していた」と不安は晴れず、「いつまで続くんでしょうね」とため息をついた。

 自宅は事故現場から約50メートル。1月28日午前、自宅にいた女性の両親は「ドーン」という衝突事故のような大きな音に驚いた。同月29日未明に中学校の体育館に避難し、そこからエイトアリーナ(八潮市)、さらに県が確保したホテルへと移った約1週間後、避難要請が解除された。

 両親は、わが家に戻れたことを喜んでいる。ただ、自宅では救助活動に伴う工事の騒音と震度2程度の振動が続き、女性は「こんなに揺れたら、自宅の地下の地盤も緩むのでは」と恐れる。洗濯物に臭いが付くことや、点検業者などを装い戸別訪問しているという不審者の情報、県道の封鎖に伴い迂回(うかい)車で交通事故が起きる懸念なども尽きない。

 「本当に悲しい出来事」と今も取り残されているトラック運転手に思いをはせ、「下水道利用制限が解除されたとはいえ、申し訳ない気持ちがある」と言う。一方で、本格的な救助のための下水道バイパス工事に約3カ月かかることに「気が遠くなる」。女性は「日本で初めての災害なので、国や県、市が連携して対応してもらわないといけない。その連携が住民の希望に沿って行われるのか、注目している」と話した。

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