埼玉新聞

 

21年の歴史に幕…埼玉・加須の「サトエ記念21世紀美術館」閉館へ 人気作品を集め、最後の企画展中

  • 利根川の夕景を描いた寺井力三郎さんの油彩画など、芸術への思いが込められた最後の企画展=加須市水深のサトエ記念21世紀美術館

 埼玉ゆかりの現代作家などの企画展を開いてきた「サトエ記念21世紀美術館」(加須市水深)が26日で閉館する。新型コロナウイルスの感染拡大で来場者が減ったことが主な理由だ。最後の企画展は、美術館と縁が深い8人の芸術家の作品を集めた「芸術への想い展」。過去の企画展で人気を集めた作品を中心に展示し、21年の歴史を回顧している。

 同館の開館は2001年5月25日。学校法人佐藤栄学園の創設者の故・佐藤栄太郎さんのコレクションを基に開館し、公益財団法人をつくって運営してきた。佐藤さんは芸術を愛し、彫刻家としての一面もあった。「創設者は埼玉に育ててもらったという思いが強く、芸術振興で地域に貢献したいと思っていた」と、同館の学芸課長補佐の江口健さん(49)は話す。

 作家や遺族から寄贈された作品も合わせ、収蔵品は油彩、水彩、日本画、彫刻など約千点に上る。その中にはロダンの彫刻もある。これまで開催した企画展は56回。浦和在住の故・小松崎邦雄さん、羽生市在住の故・寺井力三郎さんなど県内ゆかりの作家をはじめ、写実的な作風で人気がある故・藤井勉さんの作品などを紹介してきた。

 企画展に当たっては、作品の貸し出しなどで作家や遺族から最大限の協力を受けてきたという。「一緒に展覧会をやっている感じだった。予算が限られている中で大変ありがたかった。感謝しかない」と江口さん。同館で企画展を行った全ての作家と作品に深い思い入れがあるという。

 また、加須市内の小中学校30校の児童・生徒の作品を展示する「子ども美術展覧会in加須」を毎年開催し、昨年で12回を数えた。美術館でロダンの名作と一緒に子どもたちの作品を展示し、好評だった。

 地道な活動を続けてきた矢先、コロナ禍の余波を受けた。団体客の入場制限や外出自粛により来館者が激減し、収益が悪化。今後も物価高などで状況が改善する見通しが立たないことから、閉館することになった。来館者から「残念」という声が上がる中で、「これまでずっと来たいと思っていたが、閉館と聞いて初めて来館した」という静岡県在住の人もいたという。

 最後の企画展では、寺井さんや藤井さんら同館と縁が深い作家の油彩画や彫刻など約100点を展示している。その中には佐藤さんが制作した彫刻もある。江口さんは「作家たちが作品に込めた思い、(同館の)創設者の美術に込めた思いを感じてほしい」と話していた。

 問い合わせは、同館(電話0480・66・3806)へ。

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