埼玉新聞

 

「思いをともに…」降ひょう被害のトウモロコシに支援の手 あえての通常価格、自社利益抑えての販売も

  • ひょうの影響で倒れたトウモロコシ畑=7日、深谷市人見

  • 直売所でひょう被害のトウモロコシを販売=深谷市上野台のとんとん市場

 「全滅だ」「どうやって生活すればいいのか」。今月2、3日、県内の広範囲で降った大粒のひょう。大切に育ててきた農産物を傷つけられた農家は悲嘆に暮れる。県がまとめた被害総額は過去最多となる約38億円。苦境にあえぐ農家を手助けしようと、「訳あり品」として農産物を販売する動きも。直売所のほか大手スーパーも救いの手を差し伸べ、支援の輪は広がりを見せている。

 「来週から本格的に取る予定だった。これからの仕事がなくなってしまった」。深谷市人見の農業水野陽平さん(40)は、手塩にかけて育ててきたトウモロコシ畑を見わたして途方に暮れた。葉や枝がバタバタと倒れ、つい先日までの様子は見る影もない。

 栽培するトウモロコシ畑はおよそ5反(約5千平方メートル)。ひょうが直撃して傷ついたり、倒れたりしただけではなく、水路に詰まって泥水があふれ出し、畑に流れ込む被害もあった。

 被害額は約250万~300万円。その分の収入がなくなるため、ネギなど他の露地野菜の栽培に気持ちを切り替えて立て直そうと必死だ。同じ地域でも数百メートルの違いで被害が少なかった畑もあり、各農家で影響は異なりそうだ。

 水野さんは傷だらけのトウモロコシを手に、「良品はゼロ。これではお金は取れない」と落胆する。お客さんから「頑張ってください」と声をかけられ、「ありがたいし、励みになる」と言うが、「自信を持って出荷できないことが心苦しい」。

 水野さんのような農家を助けようと、深谷市上野台の農産物直売所「とんとん市場」では、ひょうが当たるなどして傷ついた「訳あり」のトウモロコシを販売している。被害品と明記しているが、通常の値段を付けている。あえて安売りすることは農家のためにならないと考えるからだ。

 小池博社長(59)は「農家にしてみれば農作物が一瞬にして駄目になった。買ってくれる人にも、その思いを分かってほしい」と説明する。

 県内を中心にスーパーを展開する「ベルク」(鶴ケ島市)も8日から、県内外の店舗でひょう被害に遭ったトウモロコシの販売を始めた。

 同社は、ひょう被害が深刻だった県北部の寄居町と美里町に物流センターを保有しており、周辺農家との取引も盛ん。降ひょう後、農家を通じて詳細な被害状況を社内で共有、21軒の農家から約2万3千本のトウモロコシを仕入れた。同社での利益率も大幅に抑えた“応援価格”で販売している。

 14日には、県内のほかにも東京都や神奈川県、千葉県の計38店舗で「ワケありとうもろこし」として販売した。さいたま櫛引店(さいたま市北区)では午前9時過ぎ、店舗入り口付近の目につく棚に陳列し、来店客が次々と手に取った。商品棚には「ひょう被害に遭ったトウモロコシを食べて農家さんを応援しよう」の文字。多少の傷みがあることを前置きした上で、味への影響はないことをアピールした。

 数日前にも購入したという60代の男性は「食感が良く甘くてジューシー。食べることで農家の方々の助けになるのであればうれしい」。30代の女性は降ひょうの影響で群馬県藤岡市に住む親戚宅のガラスが割れたという。「トウモロコシは子どもの好物。一緒に食べながら被害があったことを伝えたい」

 同社の担当者は「農家が大変な思いをしている中、われわれにできるのはその思いを野菜とともに消費者に届けること」とした上で、「フードロスの観点も含めて、できることを模索したい」と話した。

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