埼玉新聞

 

<月曜放談>世界一目指す理由「山高ければ裾野広く」 東京五輪で結実 日本卓球協会会長・藤重貞慶氏寄稿

  • 藤重貞慶氏

 本欄では、2014年から8年間、日本卓球協会会長として、卓球という窓からではありますが、スポーツの世界で感じた事や印象に残ったことを中心にお話ししたいと思います。

 まず最初は「山が高ければ裾野が広くなる」というお話です。就任直後のスポーツ団体のパーティーで、日本サッカー協会の岡野俊一郎さんから『藤重さん、山が高ければ裾野が広くなります。裾野が広くなっても山は高くなりません。世界No.1の選手を育ててください』と言われました。この言葉は非常に強く私の印象に残りました。卓球協会会長として、私は世界No.1の選手を育成する事を最も重要なテーマとして掲げることとしました。既に赤羽の味の素ナショナルトレーニングセンターでは選手強化のための十分な環境が整っていました。そこで私のすべきことは「世界で武者修行だ」と思い、日本選手が海外で世界の強豪選手と戦う機会を数多く実現する事に力を注ぎました。

 予算を確保し、多くの海外遠征の機会を提供しました。海外で戦うということは移動、食事や宿泊環境などのストレスにも耐えて戦い抜くという精神面での強さも鍛えられます。同時に選手をサポートする体制も不可欠です。世界でNo.1になるということは選手とサポートする人の努力の総合力なのです。さらに日本でも世界の強豪選手と戦える機会を作ろうと、卓球プロリーグのTリーグを立ち上げました。ここ埼玉県は先人のご努力による有数の卓球王国です。そこにTリーグ男子「T.T彩たま(創設者・柏原哲郎氏)」も発足し、ますます卓球が浸透しております。また、埼玉県人会会長の岡本圀衞さんにはTリーグ女子の「日本生命レッドエルフ」の立ち上げにご尽力いただきました。

 これらの結果、東京2020では混合ダブルスで世界No.1となり、裾野は確実に広がっています。

 世界No.1を目指す!! このことの必要性はビジネスの世界でも全く同じです。今、日本企業に最も求められていることは世界No.1ブランドを作り上げることだと思います。そのためには、単に欧米に追いつけ追い越せというアプローチではなく、彼らの持っていない強みを自らの知恵と工夫で作り上げ、大きく世界のマーケットで勝負していく勇気を持つことだと思います。そして、勇気を持って挑戦する人や企業を強力にサポートする体制をこれも勇気を持って作り上げていくことだと思います。挑戦を尊び、失敗を容認していく文化を作り上げていくことです。世界で武者修行することです。そのことが閉塞(へいそく)感の高い現在の日本を救う事になると思います。

■藤重貞慶(ふじしげ・さだよし)

 熊谷高―慶大商卒。ライオン油脂(現・ライオン)入社。2004年代表取締役社長、12年代表取締役会長、21年特別顧問(現任)。日本卓球協会会長(14~22年)、16年ACジャパン理事長(現任)、19年日本マーケティング協会会長(現任)。本庄市出身。75歳

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