コロナ禍で客足が激減、両親も相次いで他界 3代目の店主、体調崩し休業…幸手の老舗豆腐店、5年ぶり営業再開 「復活して良かった」なじみ客も喜び さらに背中を押した、生前に両親と交わした約束とは
幸手市中の「小林豆腐店」は1930(昭和5)年に創業した市内最古の老舗豆腐店。コロナ禍と家族の介護で5年前から休業していたが、10日に新店舗で営業を再開した。この間、3代目の小林栄喜(ひでき)さん(64)の両親が他界。一緒に店を切り盛りしていた家族を失い消沈していたが、「創業100年までみんなで頑張ろう」という約束が背中を押した。なじみ客も喜び、小林さんは「地域に愛される豆腐店であり続けたい」と張り切っている。
「はい木綿。大きめに切っておいたから」「このパックからはみ出るボリュームがいいのよね」。営業再開から3日目の12日午後、小林豆腐店には、なじみ客が続々と訪れ、作りたての豆腐を買い求めていた。
休業したのは2020年3月から。コロナ禍で客足が2、3割に激減し、母親の介護も重なった。何より、高齢の両親にコロナを感染させたくなかった。22年に両親が相次いで他界すると、小林さんは一人で過ごす時間が増え「だんだん元気がなくなり、体調も悪くなっていった」。
まちの豆腐店は次々と姿を消している。幸手市商工会によると、市内では1980年代に8店舗あったが、後継者不足などを理由に廃業が相次ぎ、市内に残るのは小林豆腐店を含め2店舗のみ。背景には大量生産される「格安豆腐」の普及があるという。
豆腐作りから離れていた小林さんだが、生前に両親と交わした「みんなで創業100年まで頑張ろう」という言葉がずっと心に残っていた。なじみ客も道で会うたび「いつ店を開けるの?」と尋ねてくる。自身もつい気になって他店の豆腐を味見していた。
再出発を決め、東日本大震災で損傷していた旧店舗の隣に新店舗を構えた。5年のブランクに「思い出しながら作業をする毎日」と苦笑い。国産大豆とにがりだけで作る豆腐は創業当時のまま。水物を扱うため重労働だが、高校卒業後から続けている身体はすぐに順応した。
50年ほど通っている近所の男性(93)は昔、さいたま市浦和区で豆腐店を経営していた。豆腐作りの大変さに共感しつつ、「小林さんの豆腐は豆の味がして、仕上がりがいい。休業になって心配していたから、復活してくれて良かった」と目を細める。
なじみ客との触れ合いを通じて心身の調子も改善したという小林さんは「お客さんから『この味、この味』と言われるのが一番うれしい。これからも地域に愛される豆腐店として、創業100年まで続けたい」と語った。
営業開始は午前10時から、豆腐がなくなり次第終了。定休日は日曜。問い合わせは、小林豆腐店(電話0480・42・0127)へ。