埼玉新聞

 

【楽しき波乱万丈 浜木綿子聞き書き#4】プリンスとのキスに震えて 忘れられぬ春日野八千代

  •  浜木綿子(右)と春日野八千代

     浜木綿子(右)と春日野八千代

  •  浜木綿子(右)と春日野八千代
  •  浜木綿子=東京都千代田区の帝国劇場
  • 10回続きの(4)

 舞台、映像で約70年にわたり、主演し続けてきた俳優・浜木綿子。開場から舞台に立つ東京・日比谷の2代目帝国劇場は建て替えのため2月末に幕を閉じた。浜の航跡を人との出会いを軸にたどる。

   ×   ×  

 浜木綿子が宝塚歌劇団雪組に所属した際に多く相手役を務めたのがトップ男役の明石照子である。1960年9月宝塚大劇場雪組公演「カルメン・カリビア」などで名コンビとして人気を博した。「明石さんは吸い込まれそうな目とバイブレーションの効いた歌声がセクシーな男役でした」。明石は62年まで在団し、85年に亡くなった。

 もう一人、忘れられない存在が春日野八千代である。28年入団で2012年に96歳で没するまで歌劇団に在団して多くの作品に主演し、気品、美貌、演技力を兼ね備え、「白薔薇のプリンス」と呼ばれた伝説的男役だ。

 1958年1月、宝塚大劇場の月組公演「恋人よ我に帰れ」で相手役に抜てきされた。「みんなの憧れでしたからうれしかったですねえ。生徒全員が『宝塚の神様』と尊敬していた方ですから」

 18世紀の米国が舞台。フランス革命派の身分を隠す奴隷の男(春日野)と富豪の娘(浜)の恋物語で、ラブシーンがあった。2人の唇が触れる、とうわさになり、その場面になると固唾をのんで見守る生徒たちで舞台袖がいっぱいになった。

 「春日野さんが『あっこ(浜の愛称)、おもしろいから、ほんまにやってみよか』とおっしゃってびっくり。震えました。いつも『好きなようにやりなさい』と、リードしてくださって包容力のある方でした」

 浜は94年9月9日に宝塚大劇場で催された「宝塚歌劇80周年記念式典」の楽屋で春日野と久々に対面した。「『あの時、ラブシーンで、みんな騒いでいましたよね』と申し上げたら、『そんなん忘れてしもたあ』。がっかりしちゃいました(笑)」(小玉祥子・演劇評論家)

 【略歴】こだま・しょうこ 1960年、東京生まれ。全国紙演劇担当を経て演劇評論家に。主な著書に「艶やかに 尾上菊五郎聞き書き」「完本 中村吉右衛門」など。

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