埼玉新聞

 

聖地に響くトランペット 「この音色が選手の力に」 甲子園初出場の埼玉代表・浦和実業学園高校 OBの山崎さん、積年の思い 快進撃続くチームはきょう準々決勝

  • 夢だったアルプススタンドからトランペットの音色を響かせる浦和実業学園高校ブラスバンド部OBの山崎洋司さん=25日午後、兵庫県西宮市の甲子園球場

    夢だったアルプススタンドからトランペットの音色を響かせる浦和実業学園高校ブラスバンド部OBの山崎洋司さん=25日午後、兵庫県西宮市の甲子園球場

  • 夢だったアルプススタンドからトランペットの音色を響かせる浦和実業学園高校ブラスバンド部OBの山崎洋司さん=25日午後、兵庫県西宮市の甲子園球場

 第97回選抜高校野球大会第8日の25日、埼玉県代表で春夏通じて甲子園初出場の浦和実業学園高校は東海大学付属札幌高校を8―2で制し、8強入りした。同日は、全国屈指の実力を持つ同校チアダンス部が全国大会出場のため不在。一塁側アルプススタンドでは、チアに代わり、ブラスバンド部が輝きを放った。その中に、約30年間追い続けた夢をかなえた人がいた。野球の応援に魅了され楽器の道に進んだ同校OBの会社員山崎洋司さん(46)。積年の思いを込め、球場にトランペットの音を高らかに響かせた。

 この日、スタンドで約650人の応援団を率いたのは、ブラスバンド部の部員33人とOB・OGを加えた計48人。同部部長の2年松岡真由さん(17)は「チアがいなくても応援で相手に負けたくない。自分たちがチアの分まで盛り上げる」と、力を振り絞った。

 力強くトランペットを吹いていた山崎さんは、1997年に同校を卒業。生まれつき両足にまひがあり、歩くのにつえが欠かせない。中学生のとき、東京ドームで見た読売ジャイアンツの応援団に魅了され、楽器の道に進んだという。

 高校では甲子園のアルプス席を目標にブラスバンド部に入部。自分のためよりも、応援するチームのため、練習に励んだ。入部から間もなくしてつかんだ県大会“夏の1勝”。「生徒、先生と共に勝利した喜びは格別だった」。今でも鮮明に覚えている。

 しかし、在学中に甲子園出場はかなわなかった。「高校生活は3年間しかないが、野球部の応援なら何度でも挑戦できる」。卒業後、大学生、社会人となってもトランペットを片手に同校の試合に通い続けた。夏の選手権大会はもちろん、春秋の公式戦、夏季新人戦、さいたま市民大会(旧浦和市内大会)などほとんどの試合に顔を出した。

 ウインドブレーカーの下には辻川正彦監督からもらったユニホームを着用。山崎さんが高校1年のとき、体育教師だったのが辻川監督だった。「すぐに好きになった。理由は分からないけど、カリスマ性があったのかな」と当時を思い出して笑みを浮かべた。応援を続ける理由には監督への思いも含まれている。

 22日の1回戦は夢がかなった瞬間だった。球場内の通路を抜けてスタンドに出ると高揚感に包まれた。「これが30年間待った光景だと思い、感無量だった。文字通り、言葉にならなかった」。約2千人の大応援団の中での演奏は格別だった。晴れ渡った青空の下、アルプス席に座る喜びをかみしめ、力いっぱい演奏した。

 75年の創部以来、初の甲子園出場で快進撃が続く同校。8強入りが決まると、山崎さんは小さくうなずいた。「この音色が選手の力になっていると信じている。選手のために、僕たちもまだ頑張りたい」

ツイート シェア シェア