昔ながらの漫画喫茶「思い切ってドア開けて」 コーヒー香る大人のくつろぎ場 上尾「漫画文庫び~とる」
埼玉新都市交通(ニューシャトル)原市駅の東側出口から徒歩5分、れんが壁と格子窓にツタが絡まる喫茶店「漫画文庫び~とる」(上尾市原市)。同時期に運行を開始した“地域の足”シャトルと共に時を重ねた同店は、漫画のみならずジャズの生演奏など音楽も楽しめる場として今年、開業40年を迎えた。
■漫画並べる工夫
「カラーン」。カウベルが響くドアを開けると、漂うコーヒーの香り。あめ色に光る本棚にはあふれんばかりに漫画本が並ぶ。「店内に約6千冊、ストックが2万4千冊ぐらい。入れ替えは新作を足すのと同時に旧作品も戻してみたり、お客さんの顔を思い浮かべながら考えるんですよ」。店主の松尾孝幸さん(64)は、今や希少となった昔ながらの“漫画喫茶”の工夫を楽しげに語る。
若い頃から喫茶店を開くのが夢だったという孝幸さん。通りがかりにたまたま入り、「とても落ち着けた」さいたま市北区土呂町の「漫画文庫」(新井粟次郎社長)土呂店で2年ほど経験を重ねた後にのれん分けしてもらい、親が所有していた建物を自らの手でリフォーム。1982(昭和57)年、妻の富士枝さん(61)と共に「漫画文庫び~とる」を24歳でオープンした。店名は大切にしていた愛車から取った。
■食事メニューに注力
「道が狭く、周りは空き地だらけ。こんなところで店を始めて大丈夫?と、かなり心配されてのスタートでしたね」と明かす孝幸さん。当初は運転中の営業マンが休憩に寄ったり、土呂店で培ったなじみ客らが足を運んでくれた。
翌83(同58)年、ニューシャトル原市駅の開業に伴い、店舗前がバイパスへつながる大通りに変わる。「開通の準備や工事に汗を流す関係者の皆さんで、昼も夜も大にぎわい。夫婦二人でてんてこ舞いの毎日に」と富士枝さん。「まだ若かったから、夢中で働きましたよ」と、懐かしそうに振り返る。運行が始まると、口コミで電車に乗って訪れる人やシャトル関連のイベントに集う、鉄道好きな女性客が増えたという。飲食にも力を入れ、豆から丁寧に入れたオリジナルブレンドコーヒー、懐かしい味わいのナポリタンや具だくさんのホットプレスサンド、熱々の揚げパンなどの人気メニューを目当てに訪れる客も多い。
■生演奏やギター教室も
夫妻の友人、武藤義将(よしかど)さん(51)は、趣味の腕を生かしポップスやグループ・サウンズの曲などを弾くギター教室を同店で開催中。「お二人が醸し出す雰囲気は、まるでハーモニーのように息がぴったり。心地よい空間で、地域の皆さんとのレッスンを楽しんでます」とほほ笑む。
常連客の坂本享司さん(70)は、「地元に大人のくつろぎ場があってうれしい」と話す。孝幸さんと富士枝さんは「不定期にジャズコンサートなども行っているので、漫画、食事、音楽と好きな部分を味わい、ゆっくり過ごしてもらえたら。若い人もぜひ、思い切ってドアを開けてほしい」と、穏やかに声をそろえた。
問い合わせは、漫画文庫び~とる(電話048・722・4218)へ。