埼玉新聞

 

「ヤシオスタン」から愛する故郷へ 洪水で「3分の1水没」 八潮のパキスタン料理店主らが支援呼びかけ

  • 被災地の動画を見せ支援を呼びかけるザヒッド・ジャベイドさん=7日、八潮市

  • パキスタン南西部のバルチスタン州で被災した人々(リハナ・サヒさん提供)

  記録的な豪雨による洪水で壊滅的な被害が出ているパキスタンを支援するため、埼玉県内外のパキスタン人らが寄付を募る活動に乗り出している。八潮市のパキスタン料理店「カラチの空」を経営するザヒッド・ジャベイドさん(56)は「水害はどの国でも起こり得る。国籍関係なく同じ人間として応援し、(支援を)手伝ってほしい」と呼びかけている。

■国土の3分の1水没か

 外務省によると、パキスタンでは6月中旬からの降雨で洪水が発生し、死者は千人以上に上る。国土の3分の1が水没したとの報告もある。

 ジャベイドさんの出身地は被害を免れたが、「自然豊かで楽園みたいな観光地や、動物、農地も全部流れて消えてしまった。こんな事態は人生で初めて」と肩を落とす。「家が消えた人も多く、いくらお金があっても足りない。少しでも力になりたい」とレジの横に募金箱を置いている。

 ジャベイドさんは個人で5万円を寄付した。寄付は信頼を寄せる知人のリハナ・サヒさん(60)=千葉県=を通じ、現地に物資を送るのに充てられた。

■地元なのに分からない

 サヒさんの元には2カ月前から、交流サイト(SNS)を通じ、被害を訴える写真や動画が届いた。在日パキスタン人や日本人の知人らに支援を呼びかけると同時に、自らリサイクルショップなどを回り、家を失った人のためにテントを買い集めた。

 「今、パキスタンでは服も、米も、ミルクも何もかもが足りない。今は助け合って生き延びていますが、本当に心配です」と、サヒさんは両国の人脈を活用して支援活動を続けている。

 八潮市には多くのパキスタン人が暮らし、コミュニティーが形成され、「ヤシオスタン」と呼ばれることもある。

 今回被災したシンド州出身で市内のモスク(イスラム教礼拝施設)で20年以上、運営ボランティアとして活動してきた会社員、ナズィル・アハマドさん(56)も母国の危機に立ち上がった。パキスタンでは2010年にも大洪水が発生したが、「今回の方が倍くらい規模が大きい。これからがもっと大変になる」と訴える。現地の親族は無事だったが、送られてきた現地の写真を見て「故郷なのに、どこか分からない」と激変にショックを隠せなかった。

■ウクライナ侵攻の陰で

 周囲で支援の動きが耳に入らず、焦りを抱いたアハマドさんは今月、自ら募金活動を始めた。集まれば被災した故郷の人々に分けたいという。コンビニでも募金箱を見かけるようになったが「ロシアによるウクライナ侵攻の陰で、あまり注目されていない」ともどかしさを感じている。「きれいな水が手に入らず、現地の子どもたちが感染症にかかり始めたと聞いた。心配で胸が痛い」

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 アハマドさんを通じた寄付は「ゆうちょ銀行038支店普通預金7633478」まで。一般社団法人PJF(パキスタン・ジャパン・フレンズ)の「パキスタン大洪水緊急支援募金」は、「三菱UFJ銀行上野支店普通口座0281761」または「カラチの空」など県内外のパキスタン料理店の募金箱へ。

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