埼玉新聞

 

不安…土砂崩れの秩父、ライフライン被害 在宅酸素使用の住民も 観光名所に痛手 停電の闇、最近は熊出没

  • 土砂崩落現場を視察する大野知事ら=13日午後2時ごろ、秩父市中津川地内

 13日朝、秩父市の山中で確認された土砂崩れ。人的被害は確認されていないものの、市街地に続く県道が寸断されたほかライフラインも被害を受け、復旧のめどは立っていない。現場周辺では過去にも土砂崩れが発生し、1カ月にわたって孤立状態が続いたことも。電話取材に応じた現地の住民は「停電が続いていて不安」と語った。

 崩落した土砂や倒木は、落石や土砂崩れから道路を守るために造られた全長約30メートルの「大滑ロックシェッド」の上に流れ込み、片側1車線の道路をふさいだ。道路に沿って流れる中津川の河川にも、土砂や破損したロックシェッドのブロックなどがたまり、水の流れを遅くしている。

 市危機管理課によると、中津川地区内には、秩父市街から同市中津川地区に続く県道中津川三峰口停車場線のほか、国道299号の小鹿野町方面に抜ける林道「金山志賀坂線」があるが、道幅が2メートル程度と狭く、大型車が通行するのは困難。生活道路はどうにか確保できており、今のところ住民から物資支援などの要望はない。同日午後6時現在、中津川区に在宅酸素使用中の住民が1人、薬を希望している住民が1人いる。水道は配水池を満水にし、約6日間持つ見込み。宿泊施設「こまどり荘」の宿泊者4人、従業員1人は帰宅済みという。県道中津川三峰口停車場線は午前7時ごろから終日、緊急車両以外は通行できない状態が続いている。西武観光バス中津川線は当面の間、川又バス停までの折り返し運行となる。

 同県道は2019年10月にも台風19号の影響で、別のロックシェッド(全長21メートル)が崩落。車の往来ができず、約1カ月にわたって孤立状態が続いた。14年2月の大雪時も11日間孤立したが、いずれの孤立時も地域住民たちが協力して窮地を乗り越えてきた。

 中津川地区の山中新一区長(64)によると、同地区は現在15世帯18人が在住。同地区は山間部で市中心部から車で約1時間を要する。住民は大半が高齢者だが、食料などは普段から備蓄しているという。山中区長は「土砂崩れから停電が続いているので電気が不安。最近は熊も出ていたりしていたので、真っ暗だと心配がある」と話した。

 同地区の中津峡は、荒川上流で十文字峠を源流とする中津川の渓谷で、紅葉の名所としても知られる。全長は10キロ、断崖の高さは100メートルで、標高約600メートルの場所に位置する。こまどり荘の担当者は「たくさんの予約が入っているが、対応は現在検討中。夏から秋の紅葉シーズンは観光客が多く、これからという矢先だった。従業員も抱えているので頭が痛い」と苦しい胸の内を明かした。

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