銭湯の灯「希少な存在に」 埼玉県内50年で90%減…さらに燃料高騰直撃 料金引き上げも「安泰でない」
県は10月1日から、公衆浴場(銭湯)の大人の入浴料金を450円から480円に引き上げる。銭湯は経営者の高齢化や設備老朽化で年々厳しさを増し、最近の燃料価格高騰が追い打ちをかけた。県公衆浴場業生活衛生同業組合によると、県内には1969年に380軒の銭湯があったが、現在は40軒以下に激減。同組合の担当者は「銭湯に新規参入はなく、全国的に減っている。日本ならではの文化の銭湯も、希少な存在になるかもしれない」と寂しさをにじませた。
銭湯は公衆浴場法に基づき、物価統制令によって入浴料金の上限額を県知事が定める。自助努力による経営安定化が難しいため、県は6月の補正予算で燃料高騰分を一部補助。市町村ごとに高齢者割引などをしている。
6歳未満は70円、6~11歳は180円に据え置かれる。大人料金は消費増税を受けて2020年にも430円から20円引き上げられていた。
担当者は「東京で500円とするなど各地で値上げの動きがあるが、客離れがなかった銭湯もあると聞いた。しかし30円の値上げで全ての銭湯が安泰ではない」と説明する。県内で60年続く銭湯の店主(79)も「まきで湯を沸かしているので燃料高騰はそれほど苦しくなく、値上げはあまり関係ない」と話すが「設備が古くなり、私たちも年を取った」と来年で閉業を決めた。
同組合の担当者によると、銭湯は「夜遅くまでかかる肉体労働」で、高齢の経営者には負担が大きい。自宅に風呂がない利用者は少数派で、地域住民が交流する「社交の場」が主な存在意義となったが、コロナ禍で自粛ムードが漂い物価高騰も襲った。担当者は「世代交代した銭湯もあるが、継いでも先行き不安では寂しい。楽しく希望を持って経営できるよう世の中の状況が元に戻ってほしい」とこぼす。
川口市の銭湯「ニュー松の湯」は今年で創業56年。広々した浴場に露天風呂、サウナも備える。日曜日の利用者は400人にも上り、最近のサウナブームで若者が約4割を占める。店主の岩代秀則さん(70)は、息子の和之さん(42)ら家族と協力して湯沸かしや番台(フロント)での接客、午後11時半の閉店後の掃除を行い、毎日未明まで作業する。学生時代から手伝ってきた和之さんは「夜更かしできるのは定休日の火曜だけ。掃除があるから飲み会の2次会には出られなかった」と笑う。
秀則さんは「前回の値上げ後にコロナ禍があり、潤った実感がないまま、とんでもない物価上昇が起きた」と振り返る。ガス代は昨年4月の39万円から、今年4月には63万円に高騰し、電気代と合わせ月に約30万円増大。モーターなど設備の修理が頻繁にある上、約20年前に改築した際の借り入れの返済も続き、県など補助があっても持ち出しの方が大きい。和之さんは「銭湯をやめて土地を不動産運用する方が楽だ。それでも地域に必要とされている使命感から頑張っている」と話す。
さらに「今ある銭湯を守らなければ、なくなってしまう。家に風呂があり銭湯は不要と言うが、急に風呂が故障することもある」。秀則さんも「独居の高齢者は入浴や掃除が大変で、風呂場を物置にしている人もいる。銭湯がなければ困る人は多い」とうなずく。「地域の人々の健康や衛生、日本の伝統を守りたいが、今の状態が続けばつぶれる。県や市に銭湯を残すための行動をとってほしい」と切望した。