埼玉新聞

 

光差す日まで…1日約7メートル、地道に、着実に 埼玉と山梨つなぐ大滝トンネル、掘削作業担う作業員ら

  • 377メートルまで掘削した大滝トンネル工事の作業状況を説明する、坑内員の折居和昌さん=20日午後3時、秩父市大滝

 埼玉と山梨をつなぐ西関東連絡道路の一部「大滝トンネル」(秩父市大滝強石~落合区間、全長2053メートル)の掘削工事で、大林・西武・斎藤JV工事事務所の作業員約20人が、5月に強石地区から工事を開始し、10月4日に千尺(303メートル)に到達した。1日約7.2メートルのペースで掘り進め、トンネルが貫通するのは2024年8月ごろの見通し。全国各地から集まった経験豊富な作業員たちは、暗闇から光が差し込む「貫通の瞬間」を迎える日まで、黙々と掘削作業に打ち込んでいる。

 西関東連絡道路は、関越自動車道花園インターチェンジ(深谷市)と新山梨環状道路(山梨県)を結ぶ、延長約110キロの地域高規格道路。大滝トンネルは、落石や岩盤崩落事故が多発している国道140号の現道7キロの区間を約5キロ(10分)ショートカットし、防災力強化とアクセス改善の役割を担う。

 昼夜2交代制で進めている工事現場では、全国各地から集まったトンネル掘りの坑内員計10人が活躍している。同事務所の協力会社「新輝」(神戸市)の作業主任者山本保さん(52)は坑内員歴約30年。これまで、広島県尾道市の木ノ庄トンネル(2830メートル)など約30カ所のトンネル工事に携わった。

 大分県出身の山本さんは、坑内員だった父親の背中を追うようにこの世界に入った。「いくら技術が進んだとしても、きつい仕事に変わりはない。これまで多くの若者が仕事に耐えきれずに、現場を去っていった」

 近年の掘削工事は「ドリルNAVI」などの最新遠隔操作システムを活用しながら、岩盤を火薬の発破で掘削し、ずり出し、コンクリート吹き付けなどの一連のサイクルを1日約6回繰り返す。作業員は市内のアパートに住み、24時間体制で工事を進めている。機械の故障や水の噴き出しなどのトラブルに対応するためだ。

 坑内員になるには、20種ほどの専門的スキルが必要で、実務経験を積みながら発破技士、重機操縦などの免許や資格を取得していく。「生半可な気持ちでは坑夫になれないが、それが仕事の魅力でもある。全員が無事故でトンネルを貫通できた時は、最高の達成感を味わえる」と、山本さんは熱く語る。

 新輝で工事部長を務める折居和昌さん(47)は岡山県出身。20歳からトンネル掘削の仕事に就き、兵庫県内の蘇武トンネル(3692メートル)など約20カ所の工事に関わった。「現場ごとに人員は変わるが、事故が起きない方法を全員で模索し、『貫通の光』に向かって作業を進めるので、仲間意識はすぐに高まる」と坑内員の魅力を語る。

 貫通後は、道路舗装や照明設置作業などを行って、トンネルが完成する。最後に関係者が集まって盛大に祝賀会を開くが、そこに坑内員たちの姿はない。「あくまで、トンネルを貫通させることが坑夫の使命」と既に次の現場へ赴いているからだ。

 折居さんは、自分が手がけたトンネルが開通するたび、家族とドライブに出かけ、工事の完成を確認している。「大滝トンネルが開通したら、秩父地域の観光スポットや山梨県の絶景を満喫したい」と笑顔を見せる。

 大滝トンネルの開通は27年の予定。同事務所の古家義信所長(46)は「工期から約1年が経過したが、皆さんのおかげで作業は順調に進んでいる。最後まで気を抜かず、耐久性、安全性に優れたトンネルを造っていく」と話した。

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