耳が聞こえぬ弟、支えた姉は母の精神ケアも「外出すると悪者に」…孤立 相談できぬ理由は「生活壊れそう」
11月は、家族などの身近な人を無償で介護・看護するケアラーへの理解を深める「ケアラー月間」。2021年に全国で初めて埼玉県が定めた。20年に県の支援条例が施行され、特に認知度が低かった若年者のヤングケアラーについてもその存在が知られるようになった。県が同年行った高校2年生を対象にした実態調査では、約25人に1人の4・1%がヤングケアラーであることが分かった。多様な支援の必要性が挙げられたものの、実際に相談や支援につながった例はごく一部。県では自治体や地域で連携した相談窓口や支援体制を構築するよう、取り組みを進めている。
■伴走型支援が必要
県は21日、さいたま市浦和区でケアラーについてのトークショーを開催。実際にケアラーの経験があるヤングケアラー協会代表理事の宮崎成悟さん、弁護士の藤木和子さん、元ケアラーでタレントのハリー杉山さんが登壇した。
藤木さんは5歳の時から耳の聞こえない弟の通訳や母の精神的なケアを担っていた。地元の上尾市から県外への就職を考えていた学生時代について、「父の友人から『お姉ちゃんがいたほうが安心でしょ』と言われて、(家を出ることが)悪者になった気持ちだった。友達にも話せなかった」と振り返り、ヤングケアラーが相談できずに孤立してしまう実態を語った。
宮崎さんは「(ケアラーの)声を聞きながら支援をし続けることが必要」と、一人一人に合わせた伴走型支援の必要性を訴えた。「支援は何本もある状態が望ましい。目の前に糸がたくさん垂れていれば、どれをいつ引っ張ってもいいし、その糸には一般の人でもなれる」と話した。
県は23年度までの「県ケアラー支援計画」で広報啓発、行政や地域での支援体制構築などを基本目標に掲げる。目標の70%には達していないものの、20年2月時点でケアラーの認知度は17・8%、ヤングケアラーは16・3%だったが、21年12月にはケアラー65・8%、ヤングケアラー57・4%まで上昇した。
■自覚がない
一方、特にヤングケアラーは認知度の低さに加え、当事者の子どもに自覚がないケースや、「生活が壊れてしまうかも」などの懸念で相談につながらず、潜在化が問題視される。県が9月から開始した通信アプリを活用した無料の相談窓口では、300人を超える登録があったものの、実際に相談があるのは月5、6人ほど。支援が必要と判断されれば委託業者から県へつながれるが、まだ事例はない。
今年7月に全国で初めてヤングケアラーに特化した支援条例を施行した入間市は、支援について「思った以上に苦戦している」と話す。こども支援課によると、同市ではヤングケアラーの関係課12課で情報共有会議などを実施。県内の公立小中学校27校に相談員らが訪問するなどして相談窓口を周知することで、学校や介護事業者などから約40件の相談寄せられた。しかし、子ども本人からの相談はゼロ。これまでには家事ヘルパーの派遣につながった例もあるが、保護者から聞き取りや支援を断られる場合もある。
■顔見知りの関係
県では相談を早期に支援につなげるため、本年度から教育や福祉などの担当者による合同のワークショップや研修を実施し、行政や地域内の連携による相談、支援体制の強化を進めている。藤岡麻里県地域包括ケア局長は「すぐさま手を差し伸べて支援しなければいけない段階でない、見守り段階の場合もある。多職種、他機関で連携し、何かあったらすぐ対応できる関係になっておくことが必要。まずは顔見知りになって、相談を受けた時に連携先が分かる体制づくりを進める」と話している。