指名手配犯の顔850人覚えて街で探す「見当たり捜査員」 殺人犯など9人発見 犯人を目元から覚える理由
指名手配された容疑者らの顔や容姿を写真で記憶して雑踏の中から捜し出す「見当たり捜査」。県警が2011年から導入している捜査手法の専従班として、短期間で顕著な実績を挙げている捜査員がいる。
県警刑事総務課捜査共助係の男性警部補(40)は見当たり捜査の部署に配属されて1年足らずの間に、9人の指名手配犯や容疑者を発見した。その中には逃走した殺人事件の容疑者や、17年間行方が分からなかった指名手配犯も。
警部補は「被害者のために、これ以上被害者を出さないために、絶対に私が見当たり捜査で捕まえる」との思いで、今日も街に立つ。
ターミナル駅、繁華街、パチンコ店や公営競技などの遊技場…。警部補が日々向かうのは多くの人が行き交う街中だ。夏の暑い日も冬の寒い日も屋外で活動し、1カ所に5、6時間立ち続けるだけの時もある。
集中力を切らせることなく、いつ現れるか分からない容疑者が自分の目の前を通過する一瞬、数秒を待ち続ける。「一体これはいつまで続くんだ」。肉体的、精神的にもつらい仕事に弱音をこぼしてしまいそうなときもある。
警部補が年間に記憶するのは全国で指名手配されている容疑者らおよそ800~850人。パンパンに膨れ上がった2冊の手帳には常時350~400人の顔や全身の写真が詰め込まれている。
覚えやすいように年代別に整理し、逮捕されれば外して新たな容疑者を追加していく。朝、出勤後、夜の毎日3回、手配写真を見て頭に焼き付ける。
記憶するこつは目元から。「年を取っても目元は変わらない」からだ。次に体形や体のバランスを見る。耳やほくろの位置も年齢により変化しないため見分けやすい。大型のルーペを使って平面の写真が立体的に浮かび上がるくらいまで凝視し、まるで親しい知人のように、会ったことがあるかのように覚える。
警部補が現在の部署に配属されたのは昨年9月。経歴は1年にも満たないが、これまでに9人の容疑者や指名手配犯を見つけ出した。
昨年10月、和光市で起きた80代夫婦殺傷事件では、現場から逃走した孫の少年を川越駅付近で発見。今年6月に東松山市で女性が殺害された捜査本部事件では、容疑者として浮上した元同僚の男を東京都板橋区の商業施設内で見つけた。
さらに警部補が「自信になった」と話すのは、関東一帯で詐欺行為を繰り返し、約17年間も足取りが分からなかった指名手配の男を発見したことだ。
4月下旬、熊谷駅で振り込め詐欺の広報啓発活動に参加していた際、たまたま目に留まった高齢者がいた。「あれっ。あのおじいちゃん、すごく似ているな。もしかして」
男は人の善意につけ込んで金銭をだまし取る寸借詐欺の指名手配犯。ビジネスホテルに宿泊し、携帯電話なども持たないため全く足取りがつかめず、捜査員の間では捕まえるには見当たりしかないと言われていた。男は当初偽名を使ったが、最終的には本人と認めた。
「17年間で警察官に声を掛けられたのは初めて。なぜ私だと分かったんですか」と驚いた様子だったという。
刑事総務課の大村正幸課長は「非常に頼りになる捜査員。素質はもちろんあるのだろうが、人に見えないところで努力している。このまま捜査能力を継続してもらうとともに、後進の指導にも力を入れてもらいたい」と期待する。
科学技術を駆使したデジタル捜査が主流の中、見当たり捜査はアナログな手法だが、警部補は「足取りがつかめず追跡不能な“蒸発型被疑者”を発見するにはとても効果的」と説明する。
見当たり技術を浸透させようという県警の方針の下、警察学校や各警察署を訪れて若手警察官や他の捜査員に教養も行っている。
なぜそんなに見つけられるのか。上司や同僚、誰もが知りたがるが、警部補は真剣に答える。「とにかく必死ですから」。柔和な笑顔の奥にのぞく警察官としての責任感や執念。それが警部補を支えている。