遅刻の子…校門で10年見守る男性、優しく迎える 雨濡れる子には傘渡す 男性の息子もいじめから子を守る
川口市芝富士町の市立芝富士小学校(高野葉子校長、児童数約270人)では、男性が10年間、毎朝の校門で登校する子どもたちを迎えている。遅刻した子には「よく来たね、みんな待ってるよ」と励まし、雨の朝、傘のない子には駆け寄って傘を差し出す。「僕は自動ドア。いないときはセルフでね」と言う男性に、子どもたちは「こんにちは」と親しみを込めてあいさつする。
■よく来たね
この人は近くに住む元会社員佐藤信夫さん(80)。長くゼネコンに勤め、70歳で引退してから「学校見守りボランティア」を10年間続けている。
平日は朝7時40分から正門に立つ。8時15分に門は閉まるが、30分まで少し開けておく。そのあと40分まで待つ。
門が閉まっているのを見て帰ろうとする子に声を掛ける。「みんな待ってるよ。ここまで来たのだから入っておいで」。「げた箱の陰からそっと見ている。その子が教室に入るのを見届けるとほっとする」と佐藤さん。
■お久しぶり
数日前の夕方、校門に立っていると「佐藤さーん、お久しぶりです」と声を掛けられた。「小学1年生の頃から知っている。毎日あいさつしていたじゃないですか。僕は今高校生です」と言う。
「うれしかった。早速彼を自動販売機の前に連れて行ってジュースをおごりましたよ」
スーパーで、小さな女の子が「佐藤さんこんにちは」とあいさつした。一緒にいた母親がびっくりして「誰?どういう人」と聞いている。女の子は芝富士小の児童。事情が分かった母親が「お世話になります」と頭を下げた。
■石巻から蕨へ
宮城県石巻市出身。東京都内の小さな活字工場に勤めていた23歳の時、友人の紹介で東京・有楽町の喫茶店で会った東京・大崎育ちの靖子さんと結婚。同じ頃、新聞の求人広告で見つけたゼネコンに転職、40年間勤めた。長男(54)も次男(48)も芝富士小の卒業生だ。
次男が3年生の頃の夕方、佐藤さんが帰宅すると、手土産を持った女性が玄関で靖子さんに頭を下げていた。
女性の3年生の息子は学校でいじめを受け、登校を嫌がってたが突然「明日から学校へ行く」と言い、毎日通学しているという。その子は「僕の味方をしてくれる友達がいる」と話した。その味方が佐藤さんの次男と分かりお礼に来たという。
「次男はいじめている子へ向かって両手を広げて『いじめたら駄目だ』と言ったそうです。それでいじめはなくなった。次男には『父や母にもできないことを君はやった。偉いぞ』と、ものすごく褒めた」と佐藤さん。靖子さんは1996年に54歳で亡くなったが、思い出は今も胸に強く残っている。
今日も子どもたちに囲まれて佐藤さんは笑顔を見せる。マスクをしていても笑顔ははっきり伝わる。