何があったんだ…少年事件で本音引き出す30年のキャリア 少年捜査課の警視、定年後も県警の大きな力に
少年の健全育成と被害者の被害回復―。少年事件捜査の基本理念を胸に、長く最前線に立ってきた埼玉県警少年捜査課の成田実警視(61)が、定年後も県警の大きな力となっている。少年事件捜査で培ったキャリアは通算約30年。多感な年代を相手に「聴く姿勢」を大切に、本音を引き出すことを心掛けている。
「少年が関与していれば捜査の対象となるので、強行犯や盗犯など扱う事例もさまざま。事件が起こるたびに勉強することも少なくない」と成田警視は話す。
1978年に県警警察官を拝命。交番勤務などを経て、82年に大宮署の防犯課(現・生活安全課)少年係に配属された。以降、主に少年事件を担当し、県警本部に少年捜査課が創設された2004年当時から同課に所属。昨年3月に定年を迎えてからは、再任用制度により、勤務を続けている。
「防犯カメラの映像から客観的な状況は分かっても、事件についてよく知っているのは被疑者と被害者。いかに話を引き出すかが勝負」。実況見分や被疑者、被害者双方の話など、全容解明のためには「見えない部分の捜査」が重要になってくるという。
少年から話を聴くときに心掛けているのは、人となりをよく見て、人間関係を構築すること。最初から行為を非難し、問い詰めるのではなく、「いろいろ大変だったんだろう」「何があったんだ」と聴く姿勢を示すことで信頼を得ていく。最後まで話してくれないケースもあるが、学校や社会で居場所をなくした背景を持つ少年も多いため、「警察くらいは話を聴いて受け入れてあげないと」という思いも抱いている。
印象深いのは、13年ごろに発生した県内と他県の暴走族グループによる抗争事件。暴走行為に加え、放火や窃盗などの余罪も判明し、延べ70人以上を逮捕した。少年1人につき、親や家庭、学校など、少年を取り巻く環境の調べも必要で、捜査にかかった時間は半年以上。「少年事件捜査人生で一番大変だった」と振り返る。
逮捕された少年たちの多くは、まず自らの今後を心配する言葉を口にするというが、そんな時は事件には被害者がいること、けがや財産の損失といった損害が生じていることを説明する。「人が起こした犯罪なので、やはり人が話をしなければいけない」。少年鑑別所などを経て社会に戻った際、また犯罪に手を染めることがないよう、少年の意識改革など立ち直りが必要だと感じている。
長年捜査に携わる中で社会の変化も肌で感じてきた。最近の傾向として特に実感しているのは「情報社会の進歩」だ。非行グループの抗争などが発生しても、以前は発生した地域や参加した一部のメンバーから、関わった少年らを特定することができたが、近年は、会員制交流サイト(SNS)などで容易に呼び掛けることができるため、「接点が無かったところに接点が生まれ、関係性が読めない事件が起こってしまう」という。
人間関係が希薄な状態でも接点を持つことができ、その範囲は国内にとどまらない。グローバル時代に「情報化で少年の実態が分かりづらくなっている」と捜査の難しさを指摘する。
現在は、若手の捜査員に指導することも多くなった。「事件に立ち向かう気力と体力で若い力に負けないようにしたい。『明るく元気にがモットー』」と意気込んだ。
■県警の再任用制度
2001年から年金の支給開始年齢が60歳から65歳に段階的に引き上げられたことにより、定年退職後から支給開始までの隙間を埋めるとともに、長年培った能力、経験を公務内で引き続き発揮することを目的に設けられた。02年度から警部補以下の運用が始まり、08年から警部以上に拡大された。再任用者数は13年度は20人だったが、その後は毎年増加し、昨年4月1日時点では計87人となっている。