白血病で揺らぐ恋人、葛藤の末に命救ったのは「顔も知らない誰か」 骨髄移植の映画、なぜリアリティなのか
白血病治療のための骨髄移植で、患者とドナー双方の葛藤や決断を描く映画「みんな生きている~二つ目の誕生日~」が10日から県内でも上映が始まった。白血病を発症し、空手家としての活躍の道や恋人との関係が揺らぐ中、懸命に闘病する主人公を「骨髄移植サバイバー」である樋口大悟さん(45)=新潟県出身=が熱演した。自ら企画や原案を行った樋口さんは、両沢和幸監督(62)と埼玉新聞の取材に応じ、「つらい思いをしている人に勇気と希望を持ってもらい、日常の小さな幸せに気付いてほしい」と込めた思いを明かした。
樋口さんは白血病で5年間闘病し、最終的に骨髄移植で「顔も名前も知らない誰かに命を助けられた」。空手の経験など、主人公には自身を投影したが、病気を受け入れるまで葛藤し周囲と衝突する場面については「自分はあそこまで荒れていなかった」と笑う。しかし、命を失う可能性もある移植に悩み、友人にぶつけた「俺の気持ちは分からない」という言葉は自身の過去から取り出したものだという。
脚本も担った両沢監督は人気ドラマ「ナースのお仕事」(フジテレビ)などの代表作で知られる。さいたま市浦和区出身で、「子どもの頃は農薬を散布するヘリコプターから逃げて走って遊んだ」とユーモアを交えて故郷を振り返る。今作については「白血病の作品はこれまでにもあったが、今作が違うのは骨髄移植経験者自身が患者を演じること。そして、ドナー側の物語も描いていることで、こんな作品は知る限りなかった」と真剣な表情で語った。
ドナー側でもリアルな描写にこだわった。骨髄液採取のシーンは医師が携わり、実際に使われる機器も使って撮影。樋口さんは「(患者の)自分が見るはずのなかった場面を撮影現場で見て、のぞき見をしているようだった」と振り返る。採取後の骨髄液が患者の元へ運ばれるシーンは、まさに「命のやりとり」で、「多くの人に知ってほしい、一番描きたかったシーン」と涙を浮かべて強調した。
両沢監督は「ホン(脚本)を書く時に取材をしたが、やはり自分が(白血病に)なったわけではなく、むしろより近く感じるドナー側を糸口に新しい映画を作った」と話し、「骨髄移植というテーマではあるが、面白いエンターテインメント映画として楽しめて、見終わった後に何かが残る作品になった」と自信を込めた。
上映情報は、同映画サイト参照。