「市民との協働」掲げ 前橋市の市政運営のエッセンス詰まった一冊「みんなでつくる地方自治の手引き」
2010年のクリスマス。「伊達直人」の名とともに前橋市の児童養護施設に10個のランドセルが置かれていた。年をまたいで全国各地の施設にランドセルが贈られる善意の運動が広がり、「タイガーマスク現象」といわれる社会現象にまで発展した。
前橋市では善意の運動を一過性にしなかった。ふるさと納税を活用した「タイガーマスクプロジェクト」を立ち上げ、市内の児童養護施設に入っていれば、どこに住民登録をしている子どもであろうとも、退所時に新生活支援金として15万円を支給。さらには、子どもたちが退所するにあたり、市内の全自動車教習所で運転免許を無料で取得できる事業を実施している。
群馬県の県都・前橋市。人口34万人の市民のトップに立ち、市政のかじ取りをしている山本龍市長(59)は現在2期目。タイガーマスクプロジェクト(17年のふるさとチョイスアワードで大賞受賞)に代表される前橋市の取り組み、「市民との協働」を掲げて365日まちづくりに奔走する山本市長の市政運営のエッセンスが詰まった一冊である。
本書は8章で構成されている。前橋市も全国の自治体が抱える諸問題に直面しているが、市職員のアイデア、提案で成果を挙げた7項目を紹介。例えば、ゴミの最終処分場の公募という大胆な提案を採用したところ、9カ所から応募があった。市内の大学生を消防団員に勧誘したり、空き家対策として実家の近くの空き家に市外から子ども夫妻が移住する際の助成制度を設けたところ、70組の若夫妻の転入につながった。
中学3年生までの「こども医療費の無料化」、運転免許返納者や障害者らの移動困難者対策としてタクシー運賃の補助制度、赤城山の価値を見直したスローシティの提唱、高齢者の生きがいづくりなども紹介。第12回マニフェスト大賞で優秀マニフェスト推進賞も受賞。「まちづくりのデザインは市民主体」と強調する山本市政は、埼玉県の自治体にとっても括目すべき取り組みが多い。(ぎょうせい・1728円)