埼玉新聞

 

埼玉巡る大いなる旅へ リニューアルオープンの劇場、お披露目公演は「埼玉総まとめ」 近藤良平氏寄稿

  • 近藤良平氏

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 大規模改修工事で彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市中央区)は昨年10月から2024年2月末まで休館中。そのため「今、何をしているの?」と聞かれることも。ちなみに言うと、拠点を埼玉会館(浦和区)に移し、公演や事業を継続中なので芸術監督の仕事に変わりはない。引っ越しの時は面倒…と思ったけれど、リニューアルオープンに向け、新しいことを構想する時間が増えたのがうれしい。

 長期の休館をチャンスと捉え、僕を含めたアーティストがキャラバンを組んで県内各地に出張するプロジェクト「埼玉回遊」を23年度からスタートする予定。文化に携わる住民や団体と交流し、そこで得た体験や知識を生かして作品を作る、というのが大まかな内容。掲げるテーマは「埼玉シン民俗学」。伝統芸能、お祭り、生活、歴史、農業…と埼玉に息づくさまざまな文化を知りたいし、埼玉愛あふれる人々と語り合いたい。アーティストが時間をかけて地域を学ぶことで、県民の皆さんにも新たな発見があるかもしれない。

 10~15カ所程度に上る回遊先ではそれぞれ小規模に作品を発表。自分の専門であるダンスにこだわらず、交流した住民と一緒に芝居に取り組むのもいいし、皆さんの実践を作品にして鑑賞するのもあり。何だって舞台になり得るので、例えば秩父地域に伝わる郷土料理の調理過程を見せるのも面白い。最終的には、リニューアルオープンする劇場のお披露目公演として、埼玉回遊の総まとめを舞台化したい。

 劇場から外へ飛び出す目的の一つには、劇場のPRがある。でもそれだけでなく、アートの視点を介在することで、地下水のように脈々と存在する埼玉の文化を顕在化し、広く見直すきっかけになればと思っている。

 もう一つ、野望めいたものを語らせてもらえれば、このプロジェクトで劇場文化の在り方に変化を起こしたい。現段階では「見る側」「演じる側」に分かれているけれど、時にはパフォーマー、時には観客と立場が頻繁に入れ替わるのが理想。両者の関係性が変われば劇場はもっと楽しくなる。回遊先では、住民の“表現者”としての可能性にも注目したい。

 芸術監督に就任して約1年。劇場の「顔」として責任の重さを自覚する一方で、大人になり過ぎないよう自分に言い聞かせている。子ども心を忘れず「これやりたい」と面白がることが、自由な発想を膨らませると思うから。埼玉回遊についても、劇場という「おもちゃ箱」を閉じている間、「散歩」に出かけるよ、と陽気な響きで説明したい。埼玉を巡る大いなる旅に、今からわくわくしている。

 連載を読んでいただき、ありがとうございました。今後も彩の国さいたま芸術劇場をよろしくお願いします。

■近藤良平(こんどう・りょうへい) 彩の国さいたま芸術劇場・芸術監督

 振付家、ダンサー。2022年4月から彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市中央区)の芸術監督を務める。1996年にダンスカンパニー「コンドルズ」を立ち上げし、約30カ国で公演。コンドルズは2006年からほぼ毎年、同劇場で新作公演を行っており、埼玉と縁が深い。NHK番組や映画などの振り付けも担当。第67回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。東京都出身、南米育ち。横浜国立大卒業。54歳。

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